☆6話
「失礼いたします。何時もの皆様がご挨拶をと、お取次ぎを求めて来られてますが、どうされますか?」
彼女の思惑等、夢にも思わないキャロライン、ハバネラと他愛の無い話を交わしていると、来客を告げるアイリス夫人の声、かつて祖国に置いては同じ年頃のご令嬢達とは、疎遠な関係だったキャロライン、だがここに来てからは、ある理由により、年若い令嬢達から慕われる存在になっていた。
まあ!どういたしましょう、と貴賓であるハバネラに問いかける。
「わらわは構わぬ、通せや、乙女ばかりなのだろう?ならば良い」
鷹揚に応じたハバネラ。そして、彼女達が、しずしずと二人の元へ訪れた。
「ごきげんよう、ハバネラ様、キャロライン様、お楽しみのところに、突然の来訪失礼いたします」
先頭に立つ一人が口上を述べてくる。礼を取る彼女達にハバネラは、よいよい、気楽にと声をかけた。
「そういえば、わらわはあまり表に出ぬ故、名は知っておっても顔を知らぬ、順に自己紹介してたもれ」
はい、かしこまりました、と名を述べていく彼女達。頷きながら顔を覚えて行くハバネラ。そして……
「マーガレット・ネアレラ・フォースティンと申します」
そう名乗った一人に身を乗り出した。そしてマーガレットをまじまじと眺め、こう切り出した。
「フォースティン!とな?まさかそなたの父親は、スペアレフ・ウッド・フォースティンではないのか?」
「は、はい。そうで御座います。ハバネラ様は、お父様をご存知なのでしょうか」
そう答える彼女。幾度か頷いてから答えるハバネラ。
「知ってるも何も……そなたの父親はわらわの『ファーストダンス』のお相手じゃ、その頃は水も滴る良い男だったぞよ、わらわは幼心に、ポゥ……としたものだぞよ」
まぁ、お父様はその様な名誉なお役目を……、と少しばかり驚いたマーガレット。今のお父様をご覧になられたら驚きますわ、と心の中で呟いた。
「ネラ様、少しばかりお聞きしたいのですが……よくお話される『ウッド』様とは、フォースティン様の事ですの?」
そうキャロラインが話の中に入った。彼女と話をしていると、よく出てくる名前なのだが、ほんの先には腑抜けと呼び、別の時には軟弱者と罵っていたからだ。
「そうじゃ!キャロライン。この事は話せば長い、そうじゃな……、後日わらわの館にて茶会を開こう、その時にな、皆もキャロラインと共に来るがよい」
気さくにそう話すと、その日はそれで終わりとなった。
―――、夕刻の祈りを終えると、公式の行事が無い限りキャロラインは王子の館へと向かう。共に食事を取るために。この国では各館にて、個別にすますと聞き及んでいたのだが、嫁いでみれば……、
「キャロライン、私は君と共に食事をしたい、どうかな」
そう言われ、断る理由も見つからず、周囲に聞いても駄目とは言われず、祖国では食卓を囲むことが仕来りだったこともあり、彼女はうれしく思い、共に時を過ごしていた。
食事を取りながら、色々な事を話をしつつ過ごす事に、ジョージは、ああ……いいなぁと思っている。
その日は、野兎の肉料理が出された。香草をふんだんに使い根菜と共に煮込んでいる。それを一口食べ、キャロラインはふと気がついた。
……、このお肉は兎ですの、そういえばわたくしは……まだ王子様と、婚礼の夜に食べるという物を知りませんわ、寝台ではなく、そちらがまだだからかしら?
国で聞いた話を思い出した彼女。王子に聞こうとしたが、側仕えの者たちも居る事から、どことなく気恥ずかしくなり、その場で問いかけるのは止めにした。
☆☆☆☆☆
彼女が寝台云々を言い出したからだろうか、今日はここで過ごそうかと、食事が終わると寝室へと誘ったジョージ。婚礼の夜に、そこで神官が花を寝具に散らし、言祝ぎを述べた部屋。
「まぁ……わたくし、とても嬉しゅうございます」
素直に笑顔を向けるキャロライン。二人共に、胸はドキドキしている。
キャロラインは彼と二人きりになったら、聞きたいことをどう話そうかと考えて。
ジョージは彼女と二人きりになったら、……あらぬ妄想が脳内に広がっている為で。
とりあえずキャロラインは、彼とは別に湯殿を使い、別室にて、夜の支度を整えた。もちろんジョージもそれに習う。本心を漏らせば、一緒に湯殿を使いたいなと、少しばかり思っていたのだが、それは思うに留めた。
「婚礼の夜みたいですわ、王子様の寝床は広いですの」
と無邪気に笑いながら、広いそこに入ったキャロライン。そ、そう?と先にそこで本を読んでいたジョージは、ドキドキしている、二人の様子を見て、外から紗で織られた様な天蓋が閉められる。枕元には柔らかく光る蓄光石。
「あの……王子様、ご本を読んでおられますが、少しばかりお聞きしてもよろしくて?」
ふわふわな枕に頭を乗せると、キャロラインは、緊張のあまり本の内容など入って来ないジョージに問いかける。
「んんん?何かな」
少々うわずったか、と思いつつ彼女に応じるジョージ。
「あのですね。わたくし、気が付きましたの」
「何を?」
キャロラインのそれに、ようやく気が付いたのか!と期待広がる彼。
「妖精が来ないことですわ、寝台だけでは無いのかと……今日の夕食を食べていて、気が付きましたの」
はいい?夕食?と問い返したくなったジョージだったが……、とりあえずキャロラインの話を聞くことにした。