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☆19話

 そんな!キャロライン待ってくれ!とさり行く後ろ姿に、手を伸ばすジョージ。しかし無情にも、彼の目の前でパタンと扉が閉じられた。


「ど、どうすればいいのだ?」


 ああ……神よと天を仰ぎ、涙を流したいジョージ。


「追いかけられたら、よろしいのでは?」


「女々しいと思われるやもしれない、それにこれより先は、男子禁制だ」


 マーガレットとエドワードが、落ち込む王子の気をとりなすように話を始める。


「あら、則を破ってまで、迎えに来られたら、ときめきましてよ、よろしければこっそりご案内致しましょうか?」


「だめだ、マーガレット。現実は物語の様にはいかない、どの様な時でも、規則は守らねば」


「じゃ!エドワード様は、わたくしの事よりも、規則を守ることに、重きをおかれますのね!」


 エドワードの言葉に、少しばかり面白くないマーガレットが、尖った言葉を投げつけた。


「そんな事はない、私は愛する人の為ならば、宝物庫にだって忍び込む覚悟はある、愛しいマーガレット」


「まあ……、それでこそ、わたくしのエドワードでしてよ、という訳で御座いますから、殿下、お迎えに行かれたら、よろしいかと思います」


 マーガレットの言葉に、首を振るジョージ。


「私は王子である、なので則を破る事は、決してあっては、ならいのだ」


 まあ。と小さく声を上げるマーガレットにそう言うと、その場に留まっているウッドに、娘と屋敷に戻れ、エドワード、二人を頼む。そう指示を出し、肩を落としてその場を離れた。


 ☆☆☆☆☆


 館を出るジョージと側仕えの彼。空には月が高く昇っている。ザワザワと庭園の庭木が音を立て揺れている。


「……、おい、館の位置はわかるか?」


「それは知っておりますが……、警備の者達もおりますよ、ここは……、やっぱり向かわれるのですか」


 案内しろとの声に、クスクスと笑う彼。


「当然だろ、叔母上のお側などかえって危険だ」


「それはわかりませんが……、ハバネラ様のお館は直ぐお近くで御座いますが、こちらに隠れましょう」


 話をしつつ向かっていると、木立の闇の中に隠れる様に誘う彼、言葉に従うジョージ。息を殺して潜んでいると……男達の前を通り過ぎる、警備の女騎士達。


 ……「全く。汚らわしい男が夜にまで出入りするとは……何たる不潔!」


「本当にそう!後で、清めの水にて、何処もかしこも、清浄にしなければなりません」


 おい、酷くないか?我らは『黴菌』扱いされておる……。二人が通り過ぎ、気配が消えた時を見派からい、木立から出てくると、文句を言うジョージ。


「ここの女性は『清く気高く美しく、男は獣』の教えの元に暮らして、いらっしゃいますからね」


 仕方ないかと。と警戒を怠らずに話す彼。やがて白い石造り建物にたどり着く。バルコニーがある。つる薔薇が、壁を伝い絡みつき、美しく花を咲かしている。


「ここが叔母上の……して、何処から忍び込むのか?」


 別れ際に見せた、少しばかり大人びたキャロラインの相貌を思い出し、胸のトキメキが高まり、少々暴走しそうなジョージ。


「難攻不落なんですよここは。女装をして、潜り込むしか無いのですが……」


 冷静に先を読む彼。主である王子に、危ない真似はさせられない。一方でジョージは。


「なんと!女装とな。それで楽に潜り込む事が、出来るのならば何とかして、衣装を考えねばならぬ」


 一刻も早く迎えに行きたいのか、ドレスを着ることも厭わないと言い出す。それに対して、冷静になる様話す彼。


「女装は最終手段で御座います。そうですね……確かこの館はお泊りになられる客人の部屋には、バルコニーがある場を与えられる筈……」


 なに!バルコニーとな!ではキャロラインも!と食い付く王子。


「ええ、ここでお待ちになれば、そのうち灯りがともる部屋が、そうなのでございましょう、しかし問題があります」


「問題?何だ申してみろ」


 彼のそれに、即座に聞き返すジョージ。


「バルコニーは、おそらく窓にはしっかりと『鍵』がかけられております」


「鍵とな……それを何処からか、仕入れるのかそれとも……ハバネラ様からぬすみだすのか」


 真面目にそう聞き返すジョージ。 


「いえ、ここは物語の様に演出をすれば良いかと」  


 と、下を向き少しばかり、何かを探した彼。綺麗に履き清められている為なのか、お目までのサイズが見つからぬ様子。そして、風が三度吹いた頃、小さな石ころを、一つ見つけた。


 軈て部屋に灯が灯る。ハバネラの居室である、続き間は、一階の一角を占めている。そこの一番奥に、明かりがついた。


 そして見上げる石の壁にも、背の高い、一つの窓に、柔らかい色が光を放つ。


「ては、ご武運をお祈り致します!」


 それを確認すると、彼は小石を握りしめ、力を込める。思いっ切りならば、硝子が割れて計画はおじゃんになる。


 パン!と音が立つよう、彼はそれを、キャロラインの姿が有るであろう、その部屋の窓に向かって、


 手首を効かせ、シュツ!と。投げたのでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] おおお!! 窓に小石!!! 王道中の王道!!!
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