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☆16話

「教えてくれない?奥には何があるの」


 そう甘く熱く囁いている頃、館では、ハバネラが楽しき食事を終えると、待たせてある者達の元に、再びキャロラインとマーガレットを従え、外に出ていた。


 ……ふう!全く……どうして男と言うものは、こうもせっかち何じゃ?マーガレットの男だと?取って喰らう訳でもないのに、一晩位、妾に貸しても減らぬぞよ!


 内心少しばかり不機嫌になっている彼女は、辿り着いた待たせている部屋の扉の前で、黒のレース扇をパシッと手に当て、音を立てる。


 扉が開かれその部屋に入る。そこに来ていたのは、マーガレットの婚約者と、顔色を悪くし陰気を発しているマーガレットの父、ウッド。


「お初にお目にかかります。マーガレットの婚約者、エドワード・フロスト・マインで御座います、麗しきハバネラ様」


 優雅に礼を取りながら若きエドワードが、流れる様に口上を述べた。その後ろで顔を伏せているウッドの姿。二人を上から眺めるハバネラ。


 ……まあ!こやつ……抜け目が無いというか、うふふ、マーガレットも中々見どころがあるのを、選んだのぉ……


 ひと目で彼を読み込んだハバネラ、返礼に手を差し出すと、うやうやしくそれを取り唇を当てるエドワード。


「して、こんな時刻に何用ぞ?」


「我が妻を迎えに来たので御座います」


 まあ!と小さく声が上がる。


「どうした?マーガレットや?」


 優しく後ろを見やり、ハバネラが彼女を案じる。


「まだ、わたくしたち婚約の儀すら、終わってませんのよ、それを妻だなんて、どういう事ですの?」


 父親の異変を感じた彼女は、何があったのかと、どきどきしながら緊張気味なつっぱった声で、彼に問いかける。


 それは……義父の姿をちらりと見、それから内沈む皇太子妃の様子を伺い、何が起こったのかと、顔を青ざめている婚約の顔を見やり口籠るエドワード。


 重苦しい空気が部屋に満ちる、誰も口を開こうとしない。そんな状況を、ハバネラの声が破る。


「話せ、エドワード」


 そう言われれば、受けなければならない彼。言葉を選びつつ、フォースティン家に降りかかった、お家断絶の災難話をした。


「まあ!何という事を、しでかされたのですか!そして出家ですって!お父様!フォースティン家を潰す気ですの!」


 娘の叱責が、槍のように父親に突き刺さる。


「わたくしは……いてはいけませんの?」


 あまりの話に、ついていけなくなったキャロラインが、ポロポロと涙を流し、慌てて扇を広げて隠した。衣のハンケチを取り出すと、声を立てぬ様に口を抑えている。それに気がついたマーガレットが、彼女に腕の中に囲い支える。


「ああ!キャロライン様、キャロラインさま、お泣きにならないで、そもそも、わたくしの父親が、全ての悪の大元ですもの。お父様、さっさと家名存続の為に出家なさってくださいまし」


 そのままでキツイ光を灯した視線を、小さくなっている父親に、投げるマーガレット。


 ……ああ……、なんと美しい。罵るお言葉はまるで天上の音楽……。


 微かに頬を赤らめ、激高している婚約者を、惚ける様に見るエドワード。ハバネラは若い二人を見て、不謹慎な笑いを隠すため、バサッと扇を広げて顔を隠した。


「こ、この度の事は……」


 そう口籠るウッド。追い打ちをかけるようにハバネラは言う。


「ジョージの事じゃから、知っておると思うぞよ、そもそもそちの末子が出家したのも、彼の入れ知恵じゃろう、アレは抜け目が無い」


「……!な、ならば謀反ありと取られて我が、我がフォースティン家は……」


「フン!お取り潰しになられますわね!家族揃って都落ちでしてよ!落ち潰れたわたくしを、エドワード様はなぜに迎えに来られたのですか?」


 つけつけと言うマーガレットにぺしゃんこに潰された父親。見る影もなく肩を落としている。


「それは……小さい時より我が妻は貴方だけだと……そう思って学んで来たのです。相応しい男になる様に……」


 ……ふお!若いのぉ、ここで愛の告白とな!いいのぉ……ククク、これだからたまらん。


 甘い視線を交わし合う二人。腕の中ではキャロラインが、酷く憔悴しているウッドの事を案じている。何が自分に出来るのかしら、と考えるのだが、考えても考えても……、答えが見えてこない。


 ……ああ、わたくしはなんで駄目なのでしょう。王子様にふさわしくありませんわ。なんて駄目なわたくし。


 そう思うと、胸が締め付けられ熱く涙が溢れてくる。


「キャロライン様……これもそれもお父様!幸いにして我が家にはお兄様が嫡子として、認められておりますわ。ハバネラ様。ハバネラのお力で、せめて家名だけでも残すように、お力をお貸し出来ませんか?」


 キッとした言葉と視線を飛ばした後、ハバネラに助力を願い出るマーガレット。お取り潰しとなれば、自分達は良いのだが、館で働く多くの者たちが、露頭に迷ってしまう。


「そうじゃのお……妾に出来る事のお……」


 勿体ぶりつつ、話すハバネラ。彼女の思惑通りに事は進んでいる。後は……ここにジョージがくれば役者が揃うのに……と、彼女は甥っ子の到着を焦がれている。



 ☆☆☆☆☆


「奥に有るのは!なんとそういう建物だったのか!」


 出向く用意は完璧に済ましている、ジョージは戻って来た彼の報告に素っ頓狂な声を上げた。


「はい、この目で確認をしてまいりました。奥の園に、確かに小さな建物が……」


「はあ……叔母上の初恋か、叶える為ならば……」


 そういうとブルリと身を震わせる。ハバネラの計画に乗せられたか?それとも長い年月をかけジワジワ、罠を編んでいたのだろうか。


 スペアレフ・ウッド・フォースティン殿を捉える、蜜の網を……。


「取り敢えず、キャロラインを迎えに行く!」


「では、私めは着替えてから、追いつきます」


 そのままでよかろうと、笑う主に、それは困りますと答える彼。


「忍び込めなくなりますからね」


 生真面目に答えると、彼は着替えの為に主の元を下がる。


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― 新着の感想 ―
[一言] ハバネラ様、凄すぎです。
[一言] おお!! これはいよいよ佳境といった感じですね! ワクワクします!w
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