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かみさまの涙  作者: dear*
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第1話

 四月の空が花吹雪で桜色に染まる。ぼんやりと空を見上げたていた夜兎は、視界に入ってきた其の幻想に目を細めた。

 校門の隣に植えられた桜は、入学式の終わりと共に時が動き出したかの如く散っていく。何と無く、其の様が切ないものに感じたのは今日の出逢いが余りにも衝撃的だったからだろうか。あの少年の涙と眼差しと想いの錯誤。愛して欲しいだなんて、まるで母に縋る子供の様に震えていた。

 そんな彼に好意を抱いた自分自身を、彼女は小さく嘲笑する。そうしてはぁ、と溜め息を吐くと再び歩みを進める。

 通学路であると言うのに、其処には夜兎以外誰も存在しない。ほんの少しだけ世界の中に独り取り残されたかのように錯覚する。

「友達、出来るかなぁ。」

 望との劇的な出逢いを遂げたは良いが、其れが周りの人間からは好奇の目で見られているようだ。更に言ってしまえば、友達を作る為に躍起になるクラスメートや早速と言わんばかりに夜兎と望の関係に噂話をし始める彼女等の中で、自分だけが取り残された気がした彼女が入学式後のHRが終わった途端逃げる様に教室を出たのがそもそもの問題だろう。

 夜兎は、ざわめく教室の中で質問攻めにされ困った様な顔をしていた望を思い出して苦笑いを浮かべ、今更ながらあの輪の中に入れば良かったかと少しだけ後悔した。

「御剣さん!」

 突如、背後から腕を引かれ視界に入る望の姿。どくん、と心臓が脈を打つ。それと同時に彼女は、先程まで女の子達に引っ張りだこだった彼が何故此処に居るのかと頭の中で疑問を浮かべた。

「どうしたの?」

「居なかったから。」

「え?」

「教室に、御剣さんが、居なかったから。」

 少し淋しそうに表情を曇らせてから、望は夜兎をジッと見つめる。其の澄んだ瞳に再び心音が早まるのを感じながら、其れを隠す様に彼女は苦笑いを浮かべた。彼女の腕を掴んでいる望の手にほんの少し力が込められる。

 今にも泣き出してしまいそうな彼に、彼女はどうしようもなく愛を感じた。

「ごめんね、真宮くん。」

 直毛の夜兎とは対照的にふわふわの柔らかそうな望の髪を慈しむ様に彼女の手が撫でれば、腕を掴む力は自然と弱くなる。

 其れは、安心からなのか。其れとも、望が夜兎自身を“かみさま”だと思っているからなのか。どんなに考えても、行き着く答えは後者しか有り得はしないのだと彼女は小さく息を零した。

「御剣さん?」

「私、人が沢山居る場所が苦手なんだ。」

 だからごめんね、ともう一度望へと謝罪し撫でる手を止め再び歩み出す夜兎。彼女の笑みが何と無く痛々しくて、望はその場に立ち尽くした。

 そうしてから、自らの行動は彼女にとって凶だったに違いないと深く胸中を痛ませる。この先も続く学園生活の中で、自分の存在が彼女の重荷の様に感じた。

「御剣さん、」

 小さく小さく、その背中へ呟く望の声。

 未だ歩みを続ける夜兎に、望は行き場をなくし辿り着く場所のないその声が、今の彼自身の様に感じて泣き出したい衝動に駆られた。

「真宮くん、」

 瞬間、不意にかけられた柔らかい声。

 俯いている望の視界には、新入生特有の真新しいローファーと紺色のソックス。

 彼女だ。そう感じた瞬間、ふわりと包まれる甘い香りと優しさを帯びた温もり。

 不意に枷が外れた気がした。

 ポロポロと止まらない雫に、彼はどうしようもなく愛しさを感じていた。

「アイシテル。」

 紡ぐ声は、春の風に吸い込まれる。

 散る桜に馳せた想いは、何処で満ちるのか。頭の奥でふと、思ったが彼女には何もわからなかった。


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