夢を見る。
黒く歪な竜。その口から放たれる黒いブレスが美しい姫へ迫る。しかし、1人の男がその前に立ちはだかり竜のブレスを受けきることで姫を守る。
「ゆ、勇者様!!」
可憐な姫が自らの救世主の名前を呼ぶ。
「姫。間に合って良かった。」
勇者と呼ばれた男はブレスを受けながらも顔色1つ変えない。この男は現代日本からこの世界へと召喚され、その時に次元を渡りし者として世界から絶対防域を授かったのだ。平々凡々から無敵の勇者へ。そして並み居る強敵を倒し姫を抱く。
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「やっぱ『 呼ばれた俺は世界最強?無敵スキルで俺TUEEEE』は面白いな!!。」
俺は読み終わった文庫本を閉じ1人で感想をこぼす。
新しく買ったラノベを読み終わった時は必ず感想を言うのだ。少しでも長くこの物語の世界に残る為に……
「翔太ー。ご飯よー。」
現実……学校へ向かう時間が迫ってきている。早く目が覚めてしまったので昨日買ったものの読めずに居たラノベを読んでいたのだ。
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学校へ登校しても俺のする事は変わらない。注意してくる先生の前では真面目を装い、そうでない先生の時は本を読むか寝る。テストは平均点より少し下。運動も好きじゃないし得意じゃない。友達は居ないが別にいじめられている訳でも無い。
俺、中田 翔太はそんな高校2年生だ。
空いた時間は全てゲームとラノベとアニメに注いでいる。今の俺はリアルで楽しいと思える事は無く。この素晴らしき才能を持った人達が創り上げた、夢と空想と虚構の世界の為に生きていると言っても過言ではない。
「……あ、今日の4時から新イベ来るんだった。」
今日もいつもと同じく行けと言われたから行っているだけの時間を過ごし、既に帰りのHRが終わる頃俺の中では最重要事項を思い出した。急いで帰らねば……期間限定のボスレイドがあるらしいので少しでも早くプレイしたいのだ。
HRが終了後すぐに帰り支度を済ませ早足で駐輪場へ。そのまま自転車でいつもより急ぎめで帰路につく。
もし、俺ツエの様に俺にも特別な力があれば。俺は英雄になっていただろうか?放課後の時間。イチャつきながら駅へ向かうカップルや走り込みを始める前の運動部員を流し見し、今の自分を比べて思う。
もう慣れたつもりだが、自分がいわゆる非リア充だと思うとリア充達に少しだが劣等感を抱いてしまう。俺にも特別な何かがあれば皆の人気者になれたのかな……
異世界へ呼ばれたい。その際特別な力を得たい。その力で活躍しチヤホヤされて、お姫様といい関係になりたい……その為ならあらゆる努力もするのに……考えて虚しくなる。この夢は叶うはずが無いのだ、だが、たからこそかなって欲しいと縋ってしまう。どんな力が良いかなと妄想してしまう。
「危ないよぉ」 交差点で信号待ちをしていたおばあさんがそう声を掛けられた様な気がした。
「あっ、」 赤信号にも関わらず飛び出してしまった。
「あぁ………」 パァァァアアアッツ!!!
大型トラックがクラクションを鳴らしながら迫る。勿論急には止まれない。
当然、加護の付いたものが飛び出して護ってくれることも無く体にトラックがぶち当たる。
当然、多少減速した所でトラックはトラックであり、それに轢かれた俺は死ぬ。
じゃあ死んだ後は?天国?地獄?それとも幽霊としてさ迷うのか?無に還るのか?
俺の場合は違った。俺の場合は……