再会
翌朝、私とシヴァはベルガーの訓練場を訪れた。
ベルガーの訓練場は魔王城の近くにある山間の谷にあり、多種多様な獣人で溢れていた。
熊や狼、豹といった大型肉食獣型もいれば、耳や尻尾のみが獣の人型もいる。
そんな中にあってもガロンは目立っており、すぐに見つける事が出来た。
「ガロン!」
名前を呼んで手を振ると、私達に気付いたガロンが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「じいちゃん!ミホ!会いたかった!」
「元気そうだな。こちらにはもう慣れたか?」
「ちゃんと食べてる?良く眠れてる?」
「うん。沢山食べてる。ただここでは訓練が夜にあるから、はじめの日は眠くてしょうがなかった。今はもう慣れたよ。さっき訓練が終わってもうすぐ寝る時間なんだけど、じいちゃん達が来るから待ってた」
ガロンはシヴァの肩に顎を乗せて甘えた。
「じいちゃん達の方はどんな感じ?」
「ああ、住居と菓子工房が完成した。でっかい石窯があるから一度に沢山菓子が出来るんだ。ミホが約束通り持ってきてくれたぞ」
「ホント?」
「ええ、クッキーを沢山焼いてきたわ。あとでお友達と一緒に食べてね」
そう言うとガロンはちょっと困ったように首を傾げた。
「・・・友達ってどうやったら出来るの?」
「え?」
思いがけないガロンの言葉に心臓がキュッと痛くなった。
(まだ友達ができないのかしら?)
私とシヴァは顔を見合わせた。
「どうした?同じ年頃の子供達と仲良くなれなかったのか?」
「まさかいじめられてるの?仲間はずれにされてるとか?」
心配になってガロンの腕をさすってると、私達の訪問を知ったベルガーがやってきて呆れたように言った。
「お前ら、本当に過保護だな。たった四日離れただけでこれか」
ガロンはシヴァから離れて姿勢を正した。
「ベルガー、挨拶が遅れてすまんな。ガロンはどんな様子だ?上手くやれてないのか?」
「・・・一つ聞きたいんだが、おまえはどういう育て方をしていたんだ?」
ベルガーの言葉にシヴァはムッとした様子で答えた。
「どういう意味だ?私はガロンをどこに出しても恥ずかしくないよう、強く優しい子に育てたつもりだが」
「参ったな。全く持ってその通りだったよ。精神面は甘ったれの子供のくせに、戦闘力は予想以上に高い。様子を見る為に訓練生の中に放り込んだんだが、初日に絡んできた奴らを返り討ちにして、全員舎弟にしちまった」
「・・・そうなのか?」
シヴァの問いにガロンは困ったように顔を掻いた。
「5、6人の子に遊んでやるよって言われたから、嬉しくって思いっきり相手しただけだよ。気がついたらみんな倒れてて、他の皆が俺の事を兄貴って呼ぶようになったんだ。だけど皆、俺より年上なんだよ。変だよね?」
「・・・そうね」
(誰だそいつら。許さん)
私の心の声を読んだのか、ベルガーが慌ててフォローした。
「言っておくがそいつらがやった事は虐めじゃないぞ。戦闘員は強い奴に憧れるからな。強い幹部二人が親代わりと聞いて腕試しをしたんだろう」
「強いって・・・。シヴァはともかく、私は戦闘力皆無のか弱い人間ですが」
強力な魔力を発してるのは魔王様から貰ったローブのせいだし。
「どの口が言う?俺がおまえに負けたって言う噂は森中に広まってるぞ」
「そこは否定しようよ!ちょっと泣かせただけじゃない」
「泣いてなどいない!だがお前に負けた事は情けないが事実だ。俺は完全に慢心して油断していた。あんな戦い方があるとは思わなかった。あの日の屈辱を忘れた事はない。シヴァとお前は俺にとって好敵手だ。機会があったら手合わせを頼む」
「無理」
三日月班があんなに怯えていた理由が分かった。
獣人の頂点に君臨するベルガーを負かす人間なんて、化け物だと思われても仕方がない。
(すごい誤解だわ。手合わせなんてとんでもない。余裕で死んでしまうわ)
ガロンがソワソワと私の側に来たのでクッキーの入った袋を手渡した。
「とりあえず、ガロンがいじめられていないようで安心したわ。訓練の合間にでも皆で食べて」
(・・・ガロンの方は、きっと時間がたてば大丈夫だと思うけど・・・蓮は大丈夫かしら?心を許せる友達や仲間が出来てればいいんだけど)
私は首都の方角を見た。この空は蓮のところにも続いている。
(いつか、紹介してもらえる日が来ればいいな)
そんなことを本気で考えていた私は本当に馬鹿だ。
残念なことに私の望みはそう遠くない未来に実現する事になる。
魔物にとって大きな脅威として。




