入浴
大変不本意ではあるものの、三日月班はローブ無しでも私の言う事を聞くようになった。
おかげでたった一日で思い描いた通りの住居が出来上がった。
「すごい。浴槽がある。お湯もでる。ああ、嬉しい。やっと湯船に浸かれるんだわ」
石造りの浴槽は温泉施設のように床に埋められており、つるりと滑らかな縁の外側に排水溝が設けられていた。足を伸ばして入れる大きさの浴槽内部には段差があり、腰をかけられるようにもなっている。
私はうっとりと浴槽の縁を撫でた。
「ここまで完璧な物が作れるなんて、本当にすごいわ!皆、ありがとう!」
私の手放しの賞賛に、カワウソが照れくさそうに笑った。
「そこまで喜んでもらえて光栄です」
夕食後、軽く翌日の工事についてミーティングをした後に三日月班は帰って行った。
一日中働いてクタクタになった私達も、早速新しい住居で休む事にした。
「シヴァ、お風呂湧いたから入って」
私の言葉にシヴァが笑った。
「楽しみにしてたんだろう。お前が先に入っていいぞ」
「そう?じゃあ、お言葉に甘えて遠慮なく」
私は早速お風呂に入った。
身体を洗った後に、ゆっくりと肩までお湯に浸かった。湯加減も丁度いい。
湯船に浸かるのは久しぶりだ。私は目を閉じて幸せを噛み締めた。
(あ〜、一番風呂最高。極楽極楽)
じんわりと身体が温められ疲れがとれていく。
世界屈指の温泉大国、日本に生まれて良かったとつくづく思う。
(こっちにはお風呂に入る習慣がないのかしら?人生損してるな)
さっぱりして気分よく髪を拭きながら部屋に入ると、ソファに座って書類を見ていたらしいシヴァが顔を上げた。
「お待たせ。いいお湯だったわよ。どうぞ入って」
「ああ。そうさせてもらおう」
立ち上がって浴室に向っていたシヴァが、すれ違い様に不思議そうに聞いてきた。
「なあ、風呂に入ったら歌わなきゃいけないのか?」
無意識に歌ってたのか・・・
私は両手で顔を覆い、膝から崩れ落ちた。