ローブ
翌朝、シヴァの指摘通りにローブを羽織った私のテンションは低かった。
かなりオーバーサイズだったからだ。
フードをかぶると顔の半分は隠れるし、長くたっぷりとした袖はかろうじて指先が見える程度。裾はくるぶしまであった。
姿見はないけれど、今の自分の姿が物凄く怪しいのはわかる。
(なんか、魔女のコスプレしてるみたい・・・)
生地が上質で安っぽくない事と、見た目程重くないのがせめてもの救いだ。
ローブを着た私を見たシヴァとラーソンは無言で何とも言えない顔をした。
「やっぱり変だよね。大きすぎるもの」
「・・・動きづらくはないか?」
「胸元で留めるだけで裾が広がっているから、歩きづらくはないわ」
「それなら多少大きくても我慢しろ。防御力が高いと思えばいい」
「・・・そうだね。朝食の支度してくる」
(どうせならもう少しスマートな着こなしがしたかったけど、贅沢は言うまい。防寒着が増えたと思おう)
◇◆◇◆◇◆◇◆
食堂へと歩いて行くミホの後ろ姿を見ながらラーソンがため息をついた。
「すげぇな。知らない奴が見たら相当ビビるぞ」
「魔王様の魔力が織り込まれた生地で作られているからな」
「魔王様は相当ミホの事を気に入っているようだな。あんなのマーキングと変わらんだろう」
「まだミホの事を知らない奴の方が多いからな」
「お前、良く平気でいられるな」
「安全を考えたら仕方がない。当の本人は服が増えたくらいにしか思ってないしな。それに後で防御力の高い魔法をかけるつもりだ」
「なんだ、やっぱり面白くないんじゃねぇか」
からかうようなラーソンの言葉に、シヴァは眉を寄せた。
「魔王様がミホを気に入ってるのは事実だが、必要以上に好意を持っておられる訳じゃない。良くも悪くも、あの方は我らの王なのだ」
「どういう意味だ?」
「あの方にとって、ミホは使える駒にすぎないってことだ。彼女を幹部にしたのは、私を前のように手元で働かせる為というのもあるだろうな」
ラーソンはまじまじとシヴァを見た。
「おい、お前まさか・・・」
「誤解するな。反逆の意志は毛頭ない。魔王様の事は今でも尊敬している。ただ私は先の夜が終わってからは隠居するつもりでいたんだ」
「まあ実際ずいぶんと長い間行方をくらませていたもんな」
「森の奥で静かに暮らしてただけさ」
「最近は随分と賑やかになったようだが?」
「まったくだ。ガロンがミホを拾ってきてから予想外の事ばかり起きる」
シヴァが苦笑すると、ラーソンもニヤリと笑った。
「お前も随分とまるくなったよな。別人みたいだぜ」
「そうか?」
「まあ俺は今の方が好きだがね」
「なんだ。お前も黒髪が好みか」
ラーソンは呆れた目でシヴァを見上げた。
「・・・最近わかったんだが、お前って時々馬鹿だよな」