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改修工事

「それじゃあ、一ヶ月後に戻ってきます。若様達もお元気で」


「ああ、君も気をつけてな」


 一夜明け、ダンは私達に見送られて首都へと出発した。

 ダンの姿が見えなくなると魔王様は私達の方へ向き直って微笑んだ。

 

「さて、これまで色々な準備を任せっきりにしてすまなかったな。

 帰る前に改修工事の手伝いをしてやろう」


 そう言って、スタスタと宿の方へ歩いて行った。

 

「改修工事の手伝いですか?そんな事はなさらずとも・・・」


 そう言いかけたシヴァを魔王様は目で制した。


「気にするな。私がやりたいんだ。みんな下がっていろ」


 魔王様が宿の建物に向って右手をかざすと、黒いモヤが渦を巻いて現れた。それは時々紫色の光を放ちながらだんだんと大きくなっていった。


「まさか・・・!」


 シヴァは私を抱き寄せ、自分の胸に私の顔を押し付けるようにして頭を庇った。


「目をつぶってしっかり掴まっていろ!」


 その声があまりにも真剣だったので、私は訳もわからずその言葉に従いシヴァにしがみついた。

 次の瞬間、ドンッという轟音が響き渡り、ビリビリとした衝撃波に襲われた。

 しばらくして恐る恐る目を開けると、隣にいたラーソンが吹っ飛ばされて転がっていた。

 振り向くと、多くの冒険者を受け入れていた3階建ての建物は跡形もなくなり、巨大な瓦礫の山の前で魔王様が満足げに微笑んでいた。


「スッキリしたな。次は離れを始末するか」


 シヴァは慌てて魔王様を制した。


「お待ちください。あそこにはまだ荷物や使える家具が残ってます。運び出すので少々お時間を下さい。ラーソン、起きろ!寝転がっている場合じゃないぞ!」


 シヴァはラーソンを助け起こすと離れへと急いだ。

 魔王様は離れに向ってゆっくりと歩きながら私に話しかけた。


「建物自体は(おもむき)があって嫌いじゃないが、あそこは子供達にとって辛い思い出の場所だからな。あの時から私の手で破壊すると決めていたんだ」


「そうだったんですね。それにしても、これはもう改修工事とは言えないんじゃ・・・?」


「細かい事は気にするな」


(いや、全然細かくないよね?)


 さすがに目の当たりにした魔王様の力の凄さに恐れ戦きはしたけれど、これからここで生活する身にとっては由々しき事態だ。


「離れが壊されたら、私達どこで寝ればいいのかしら?」


 ぽつりと漏らすと魔王様が笑った。


「何の為に私がシヴァを派遣したと思っている。あいつに任せていれば大丈夫だ」


「そうなんですか?」


「ああ。今回の事も文句を言いながらも内心楽しんでいるはずだ」


 そうだろうか?少なくともガロンと離れる事に関しては本気で嫌がってた気がするけど。


「それに私が封印されている間、他の幹部達は己の種族や領地を統治してたんだが、あいつは隠居していたらしいからな。これからはその分も働いてもらうさ」


「あ〜、なるほど。そう言えば、シヴァって領地とか持ってないんですね」


「あいつは一人が気楽だと言って欲しがらなかったんだ。己の種族とも距離を置いているのは、反りが合わないからと言っていたが、何かあった時に巻き込みたくないからだろう」


 まあ、あまりにも魔力が強すぎて同胞から恐れられているのは事実だが、と魔王様が小さく呟いた。


(ああ、そうなのか。もしかしたらシヴァはガロンと自分を重ねてるかもしれない)


 仲間に受け入れてもらえない孤独を、シヴァもまた経験しているのだ。

 ガロンを助けたのは罪悪感からだけではなかったのだろう。

 あの子を慈しむ事で、シヴァもまた救われていたのかもしれない。

 二人が離れて暮らすハメになった事に、キュッと心が痛んだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 シヴァとラーソンが荷物や家具を全て運び終わると、魔王様は嬉々として離れを破壊し始めた。


「・・・魔王様、楽しそうだね」


「そうだな。我々の為に戦闘を避け大人しくして下さってるが、破壊活動は魔王様に取って半分本能みたいな物だからな」


「あ〜、結構ストレス溜まってたんだね」


 衝撃波の届かない安全地帯で魔王様の破壊活動を見守っていると、ラーソンが呟いた。


「なあ、俺ら今夜どこで寝ればいいんだ?」


「あ、やっぱりそう思うわよね。魔王様がシヴァに任せておけば大丈夫だって言ってた」


「そうか。頼りにしてるぜ、統括責任者」


「お願いね、統括責任者」


 私とラーソンに肩を叩かれ、シヴァは発狂した。


「何勝手な事ばかり言ってるんだ。また私に丸投げする気か!?」


 何が何でも食堂だけは死守するぞと言うシヴァに、私とラーソンは激しく同意した。

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[一言] シヴァ…中間管理職の悲哀を感じる
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