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新しい生活2

「こちらが今までに売った物のリストと代金です」


 ダンから台帳とお金の入った袋を渡されると、若様は台帳に目を通した。


「ふむ。宿で使っていたベッドは全て売れたのか。

 いつ誰にいくらで売ったかもきちんと書いてあるな。

 君に任せて正解だったようだ」


 若様に褒められ、ダンは照れながら頭を掻いた。


「いや、俺は今までこういう作業やった事なくて・・・

 後で面倒な事にならないように、ただ書き付けてただけです」


「十分だ」


 若様はシヴァに台帳を渡した。


「今後の参考になるだろう。お前に預ける」


 シヴァは無言で受け取ると、さっと台帳に目を通した。


「一部の家具がかなり高値で売れたようだが、これは?」


「ああ、前の主人の部屋に残されてた家具だ。派手な机とかフカフカの絨毯とか、馬鹿でかい彫刻なんかを欲しがる人がいたもんでね。

 離れの他の部屋の家具は、こっちに戻られた時に使うかと思ってそのままにしてある」


(ああ、あの成金趣味の家具、全部売れたんだ。

 ああいうのを欲しがる人って、多分似たような価値観なんだろうなぁ)


 部屋に入った事があると知れたらまずいので、私は黙って聞き役に徹した。


「家具を運んで街まで売りに行った訳じゃないんだろう?どうやったんだ?」


「ああ、オークションを開いたんだ。宿をたたむのは冒険者達が広めてくれてたから、残った家具を売りに出す事も人づてにすぐに伝わった。日にちを決めたら、何十人もの客が集まってきたよ」


「なるほど。君は若様が見込んだ通り有能な人物だな。気に入った」


 シヴァに褒められ、ダンはまた照れて頭を掻いた。


「私は仕事の関係で明日には国に帰らないと行けない。

 シヴァに私の代理としてここの統括責任者になってもらう事にした。

 ダン、これからはシヴァの補佐として働いて欲しい」


 若様の言葉に、ダンは姿勢を正した。


「わかりました。期待に添えるよう頑張ります」


 若様がシヴァにお金の入った袋を渡すと、シヴァはテーブルの上にお金を広げた。


「台帳に記載されている金額に間違いないようです」


「そうか」


 若様はそこから銀の硬貨を10枚とってダンの前に置いた。


「この一ヶ月分の君の給金だ。受け取ってくれ」


「え?こんなに?」


「君はそれに見合う働きをしてくれた。

 一ヶ月の猶予があったとはいえ、一人でここまでしてくれて感謝する」


 ダンの顔が紅潮した。


(魔王様って、やっぱり部下をやる気にさせるの上手だわ。

 自分の仕事を認めてもらえたら『もっと頑張ろう』って気持ちになるものね。

 それに前の雇い主がアレだったから、余計に立派に見えるだろうなぁ)


 一人で納得していると、シヴァがダンに質問した。


「君は首都に家があるのか?」


「ああ、実家がある。今は母親が一人で住んでる。

 今まではここに住み込みだったんで滅多に帰ってないんだが」


「そうか。では明日より1ヶ月の休暇をやろう。母親孝行するといい」


「は?」


 突然の休暇にダンは目を丸くした。


「明日、若様が出立されたら早速施設の改修工事を始める予定だ。

 しばらくはここでの仕事がないし、今までの分ゆっくり休んでくれ」


「ああ、そういう事なら遠慮なく」


「ただ、休みの間にやってもらいたい事がある。

 小麦や砂糖の相場と店舗の空きがないかを調べてもらいたい」


「それって休みって言うか?」


 ダンの言葉にシヴァはニヤリと笑った。


「家に帰って暇を持て余してたら、仕事を首になったんじゃないかと母親が心配するだろう?それに何も交渉してこいって訳じゃない。街に遊びに行ったついでに良さそうな物件がないか見るだけだ」


「簡単に言ってくれるぜ」


「私の補佐として、君には販売を任せたいんだ。

 君は土地勘があるし、人脈もある。おまけに頭も切れる。

 異国人の私よりよっぽど上手くいくだろう」 


「そうか?あんたが店に顔出せば、すぐに女達が殺到すると思うがな」


「やめとけ、地獄を見るぞ」


 ラーソンが横から口を出した。


「俺の兄貴がシヴァと一緒に働いてた頃、こいつの恋人の座を狙う女共が血で血を洗う争いを繰り広げたそうだ。当の本人が誰も相手にしてなかったから、周りの奴らがとばっちりを食らったそうだ」


「・・・そういうわけで、私は表に出ない方がいいと思う」


「ああ、色男すぎるのも大変なんだな」


 ダンは納得していたが、シヴァは凄く不本意な顔をしていた。


「基本、君には街を拠点にして仕事をしてもらいたい。

 朝こちらに来て菓子を受け取ってから、昼間街で売る。

 時々、小麦や砂糖など材料を仕入れて翌日持ってきて欲しい。

 ちなみにうちは週に2度休みがある。花の日と女神様の日が休みだ。

 なかなかいい条件だと思わないか?」


「週に2度も休みだって?」


「ああ、理由は二つある。

 一つはミホの体力の問題だ。菓子作りは力仕事だから休息が必要だ。

 もう一つは知人に預けている私達の子供に会いに行く為だ」


「ものすごく個人的な理由なんだな・・・」


「ああ、これくらい許されないと統括責任者なんぞやってられん」


 シヴァの言葉に若様が笑った。


「そうだろう?私もいつも同じ気持ちなんだ」

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