責任
家に帰ると私はシヴァからお説教を食らうハメになってしまった。
「全くお前という奴は。幹部に任命されたことに対するの第一声があれか?呆れた奴だ」
「はい。全く以ておっしゃる通りです。すみませんでした」
私は素直に反省した。
穴があったら入りたい。
いや、やっぱり穴は無しで。押し入れくらいにしとこう、うん。
私がこんな風にがめつくなったのはシングルマザーになってからだ。
給与からは税金や保険が当たり前のように差し引かれるのに、還付金や諸々の手当は自分から申請しないと貰えない。
役所の職員にも当たり外れがあって、親切丁寧にアドバイスしてくれる人もいれば、やる気なさそうに書類だけを預かり目を通さない人もいる。
そんな人に当たった時に限って、書類に不備があり、後日再び役所に行くハメになる。
忙しい中時間を見つけて役所に行っても、申請するのに長く待たされた挙げ句、またやる気の無い態度を取られるのだ。
そんな事が重なって、私はお金に絡む事に対しては納得いくまで質問するようになった。
父親が亡くなった事で、あの子に不自由な暮らしを強いるのは嫌だった。
現状を嘆いてばかりいても何も解決しない。
蓮を守り育てるために強く図太くなることにしたのだ。
「ついつい元いた世界の感覚で発言してしまいました。反省してます」
シヴァはため息をつきつつ私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「まあいい。魔王様はお前のそういうユニークな発想や行動力を買われているしな。
お前を幹部にしてはどうかと推したのはオリヴィアだし、反対する者もいなかった。
公に仲間と認められたんだ。お前が頑張った結果だ。良かったな」
シヴァの言葉に胸がじんわりと温かくなった。
子供達を助けたいと言う思いに何の打算も無かったから、こんな展開になるとは予想もしていなかった。
「まさかこんな事になるなんて思わなかった。シヴァは知ってたのね?」
「ああ。三日前に招集された時に決定した。
改修工事には他の者も出入りする事になる。やって欲しい事を指示するなら相応の肩書きがあった方いい」
「え?私が指示するの?」
「もちろんだ。実際に働くのはお前とラーソンだからな。
自分達が働きやすいように改修してもらうといい。
その代わり、後から文句を言うなよ。ラーソンと話し合ってよく考えてから指示を出せ」
「え〜、責任重大じゃない」
「当たり前だ。改修工事が終わったら向こうで暮らす事になるだろうから、住居についても話し合うといい」
その言葉に私はショックを受けた。
「え?ここから通っちゃ駄目なの?」
「どれだけ時間がかかると思ってる?向こうにいた方が効率がいいだろう」
たとえ通勤に一時間以上かかろうが、このままシヴァとガロンと一緒に暮らしたいと言うと、シヴァは苦笑した。
「そう思ってもらうのは嬉しいが、お前の体力が持たないぞ」
「いや、だって二人と離れて暮らすことになるなんて思わなかったし。一緒に行ってくれないの?」
「私は人間に化ける事は可能だが、ガロンがな。
成長期に別の姿で長期間過ごさせるのはあまり良くない。
周りから隔離された状況とはいえ、人間の領域で活動するからには油断大敵だ」
私はガッカリした。
皆の役に立つのは嬉しいが、二人と離れて暮らすのは寂しい。
絶対にガロンロスになる。
「寂しいのはお前だけじゃない。私もガロンも同じ気持ちだ」
シヴァの言葉は嘘じゃないと思う。
けれど彼もまた幹部だから、魔王様の決定に従うしか無いのだ。
私は無駄なあがきと思ったが言わずにいられなかった。
「・・・私がいなくなったら誰が食事やおやつの用意するのよ」
「そうだな。大問題だ」
(これでも駄目か・・・)
心細くなった私は無意識にシヴァの服を掴んでいた。
「なんて顔をしている。ずっと会えなくなる訳じゃないぞ」
「わかってるけど・・・時々は帰ってきてもいい?」
「もちろんだ。休みの度に迎えに行く」
(なら、いいか。週休二日にしてもらおう)
それなら大丈夫、三日に一度二人に会えるなら頑張れるわ、と微笑んだ私をシヴァが抱きしめた。
「そんな風に泣かないでくれ。決心が揺らぐだろう」
ただでさえガロンを説得しないといけないんだぞ、とシヴァが呟いた。
それを聞いて、ますます涙が止まらなくなった。