報酬
ドルトから帰ると、私と入れ替わるようにシヴァが城へと招集された。
「最近シヴァは忙しいわね。幹部だからしょうがないのかしら」
「前はずっと家にいたよ。薬と魔法の研究ばっかりしてた」
「へ〜、シヴァの部屋がハーブで溢れてるのって研究の為なんだ」
「うん。回復魔法が不得意だから、俺が怪我とか病気したりした時の為にって」
「本当にガロンの事が大事なのね」
そういうとガロンはエヘヘと照れくさそうに笑った。
ふと、ずっと気になってた事を聞いてみた。
「ガロンはシヴァの養子になったんでしょ?どうしてお父さんって呼ばないの?」
「俺の本当のお父さんはまだ生きてるから、会いたくなったらいつでも会いに行っていいからって。だから自分の事はじいちゃんって呼べって言ってた」
「そうなんだ。優しいね」
「うん。俺じいちゃんの事が大好き」
(辛い幼少期を過ごしたにもかかわらず、ガロンがこんなに素直でいい子なのは、シヴァが愛情を注いで育てたからよね)
八人の子供達は、今頃どうしているだろう。
心の傷が癒えるのにはきっと長い時間がかかる。
唯一の救いはみんな家族がいることだ。
家族から沢山の愛情を注がれれば、きっと元気になるだろう。
辛い思いをした分、幸せになってもらいたいと心から思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
三日後、私はシヴァと共に登城するように命を受けた。
「この間作ってもらったスカートがあるだろう。あれを着ていったらどうだ?」
「ああ、そうね。せっかくだから着ようかな」
シヴァにしてはなかなかいい提案をしてくれた。
作戦準備の時に一度試着しただけで、着る機会がなかったのだ。
スカートの裾がひらりと揺れると心も躍った。
(たまにはお洒落するのもいいわよね)
支度がすむとシヴァが恭しく手を差し出してきた。
「ではレディ、参りましょう」
「あはは、何の真似?」
私は笑ってシヴァの手を取った。
「行けば分かる」
シヴァは微笑んで、謁見の間へと続く扉を開けた。
謁見の間には既に幹部のみんなが集まっており、モリスとオリヴィアが微笑んで迎えてくれた。
シヴァは私を魔王様の玉座の正面までエスコートして、跪くように言い残すと幹部の列に紛れた。
跪いて頭を垂れた私に、魔王様から声がかかった。
「面を上げよ」
顔を上げると魔王様が微笑みながらこちらを見ていた。
「ミホ、此度の働き誠にご苦労であった。
子供達の救出に加え、情報収集に適した土地をもたらした功績は大きい。
よって、褒美を取らす」
魔王様が片手を上げると、召使いが恭しく何かを運んで私の前にやってきた。
「これは私からの個人的な礼だ。受け取れ」
私に差し出されたのは、夜空を切り取ったような濃い藍色をしたフード付きのローブだった。
生地はしっかりとしていて光沢があり、滑らかで絹のような肌触りだった。
「私の魔力が織り込んである。それを着ていれば一人で森を歩いていても他の魔物に襲われる事は無い」
(何と!そんな効果が!)
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
(わーい、服が増えた。ラッキー)
思いがけず綺麗な服が貰えた事に単純に喜んでいた私は、次の言葉を聞いて耳を疑った。
「今後ミホには人間の動向を探るという大役を任せることにした。
そのため極めて異例ではあるが、ミホを幹部の一人として迎えたいと思う。
異論のある者は前に出よ」
(は?何とおっしゃいました?)
恐る恐る幹部の皆を見ても、誰も何も言わない。
こちらを見て微笑んでるだけだ。
(え?みんな知ってたの?・・・幹部?私が?嘘でしょ?)
信じられない思いで視線を前へ戻すと、魔王様がニヤリと笑った。
「お前の働きに見合った報酬だ。今後も期待しているぞ」
幹部って。
それって、それって・・・
「つまり、役職手当がつくってことですか?」
やっとこさ幹部に昇格しました。