反省会
私とスフィアの周りに、次々に子供達がやってきた。
「お礼を言うのが遅くなってごめんなさい。助けてくれてありがとう」
「ありがとうございました」
「あそこから連れ出してくれてありがとう」
子供達がぎこちなく微笑みながらお礼を言ってくれた。
その顔を見て、私はまた胸がいっぱいになった。
初めて見た時、彼らは皆うつろな目をして無表情だった。
きっと、攫われてから今日まで笑う事すら出来なかったのだろう。
「どういたしまして。良かったら私だけじゃなく、ここにいる幹部の人達にもお礼を言ってね。あなた達の笑顔を見たら、みんな疲れが吹っ飛んじゃうわ」
それを聞いたスフィアは私から離れると、真っ先にベルガーに抱きついた。
「ベルガーおじさん、助けてくれてありがとう。すごく会いたかった。また会えて嬉しい」
「ああ、俺もだ。お前が無事で良かった。見つけるのが遅くなってすまない。辛かったな」
ベルガーは目を瞑ってしっかりとスフィアを抱きしめた。
他の子供達も幹部の皆へお礼を言って、謁見の間は温かい笑顔と言葉で溢れた。
その様子を静かに見守っていた魔王様が小さく手を動かすと、モリスが前に進み出た。
「魔王様が子供達を家でゆっくり休ませるようにとの仰せだ。これにて謁見終了とする」
◇◆◇◆◇◆◇◆
親子が城から退出すると、幹部達は会議室へと集められた。
「皆、ご苦労だった。やはり予定通りにはいかなかったが、それぞれが臨機応変に行動してくれたおかげで無事に子供達を保護する事が出来た。改めて礼を言う」
(さっきも思ったけど、魔王様って統治者の鑑だわ。自叙伝とかあったら絶対に買って読むのに)
魔王様の言葉に感心していると、モリスが質問した。
「ラーソンが戻っていないのは何故ですか?」
「ああ、ミホが怒って暴れたんだ。
宿の主人への報復として「ドルト」を没収した。
信じられないだろうが本当だ。ここに権利書もある。
そう言う訳で、ラーソンに宿に残ってもらっている」
「やはりお前が原因か」
シヴァが呆れた目をして私を見た。
「暴れてないし。魔王様、色々端折り過ぎです」
魔王様はニヤリと笑った。
「そうか?ではお前から皆に説明せよ」
魔王様の許しが出たので、私は端的に事の次第を報告した。
「ーと言う訳で、あの宿は合法的に私達の物になりました。これで少しは皆の溜飲が下がったと思うの」
私の説明を聞いた幹部達は、呆気にとられた様子だった。
「よくもまあ、そんな事を思いつくな。子供達を冒険者の影に潜ませるとか、普通なら考えられん」
「大胆不敵というか、なんというか・・・恐ろしい奴だ」
「つくづくミホが敵じゃなくて良かったと思うわ」
「そうだな。こいつ確実に相手の弱点を抉ってくるぞ」
「ちょっと、私を何だと思ってるのよ?」
反論しようとした私を魔王様が片手で制した。
「ドルトを手に入れた事による利点が二つある。
一つは宿を閉鎖する事によって、ダンジョン攻略に来る冒険者の数が減る事。
あそこに住んでいる者達の被害も少なくなるだろう。
二つ目は人間の動向を知る拠点として活用できる事だ。
あの場所に菓子工房と酒蔵を造り、商売を通じて人間側の情報を得ようと思う。
皆の意見を聞きたい」
思いがけない展開に皆が驚き、色んな意見が飛び交った。