感謝
「魔王様、子供達を助けていただき本当にありがとうございます」
「どんなに探しても見つからず、半分あきらめてました。
こうして無事に会えるなんて夢みたいです。感謝してもしきれません」
「本当に、本当にありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
「魔王様直々に子供達を助けに行かれたとか。
我々はあなた様への一生の忠誠を誓います」
子供達の親がうれし泣きしながら口々に魔王様への感謝の言葉を述べた。
魔王様は玉座に座ったまま静かにそれを聞いていたけれど、片手を上げて皆を黙らせた。
「私の民を取り戻しに行っただけだ。礼には及ばない。
それに此度の成功は、そこに並ぶ幹部達全員の協力があって出来たことだ。
優秀な臣下達を誇りに思う。感謝の言葉は彼らにこそふさわしい」
魔王様の言葉に幹部達の顔が紅潮した。
「子供達は卑劣な人間と混血児によって攫われ、長期間自由を奪われて辛酸をなめた。お前達の人間への恨みは当然の事だ。許す事も出来ないだろう。
しかし子供達を救ったのも、また人間だ。ミホ、前へ」
(え?私?)
いきなり名前を呼ばれて戸惑っていたら、シヴァにそっと背中を押された。
緊張しながら列から少し前に進み出ると、事情を知らない親達がざわついた。
「見ての通りミホは人間だが、諸事情により私の庇護下にいる。
彼女もお前達と同じく、ある日突然子供を奪われた。
今回、ミホは子供達を助ける為に自らの命を賭けてくれた。
彼女の協力が無ければ、両種族共に多くの罪無き者の血が流れただろう。
一番の功労者は彼女だ」
魔王様が玉座から立ち上がり、私に向って目礼した。
「皆を代表して、心から礼を言う」
あり得ない光景に、その場にいた全員が言葉を失った。
「とんでもないです。
先程魔王様がおっしゃったように、幹部の皆さんの協力のおかげです。
少しでもお役に立てて幸いです」
私は胸がいっぱいになり、そう言うのがやっとだった。
一方、親達は皆、戸惑いを隠せない様子で私を見ていた。
当たり前だ。
魔王様に言われたからといって、そう簡単に人間を信じられないだろう。
気まずい沈黙の中、親子の集団から小さな影が飛び出した。
地下室で一番始めに目が合った美少女だった。
「スフィア!?」
驚く両親の声にも構わず、彼女は真っ直ぐに私に駆け寄り抱きついた。
「助けにきてくれてありがとう。私達の為に命を賭けてくれてありがとう。
本当に、本当にありがとう。
あなたが子供と一日も早く会えるように毎日女神様にお祈りするわ」
その真っ直ぐで温かい言葉に、思わず涙がこぼれた。
私はしゃがんで彼女に目線を合わせ、微笑んで抱きしめた。
「こちらこそありがとう。
あなた達を無事にご両親の元に返す事が出来て本当に良かった。
生きていてくれてありがとう」