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勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


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種明かし

 若様の周りに従業員が集まってきたので食堂に移動してもらうことにした。

 ダンは三人の仲間に指示して、キムとその部下を取り囲んでいた。


「おい、時間がないんだ。ここから出て行く前に俺たちの給金を払ってもらおうか」


 キムは力なく立ち上がり、追い立てられるようにしてフラフラと離れに向って歩き出した。

 若様はキム達と一緒に離れに向うダンに声をかけた。

 

「ダン、君には臨時で宿の責任者をしてもらいたいが構わないか?後から食堂に来てくれ」


「わかりました。コイツらを追い出したら、そっちに行きます」


 それぞれが移動して行き、中庭に残ったのは私とラーソンの二人だけになった。


「さて、じゃあ荷物を片付けましょうか。ラーソン、酒樽をお願いできる?」


「ああ、少し溢れちまったがまだ十分残ってる。今夜振る舞うくらいはあるだろう」


 散らばった荷物を拾い集めて荷馬車の中を片付けていると、ラーソンがこそっと小声で聞いてきた。


「それで?子供達は無事なんだろうな?」


「ええ、今頃みんなダンジョンに向ってるわ。向こうで待機している幹部達が保護してくれるはずよ」


「子供達だけで行かせたのか?最初は俺らが連れて行くはずだったろう?」


「ええ。でも見張りの人たちを眠らせる事が出来なかったし、水鹿の大群が押し寄せたのが扉のある外壁だったんで、混乱に乗じて逃がす事も出来なくなったのよ。それで予定を変更したの」


「よく見つからなかったな。いつ、どうやって逃がしたんだ?」


「ついさっきよ。朝、ラーソンを起こしに行った時、魔王様の影から寝ていた冒険者達の影に移動させたの。冒険者達にダンジョンまで連れて行ってもらったってわけ」


 ラーソンは口をアングリと開けた。


「おいおい、良くそんな大胆不敵な事を思いついたな」


「子供達が地下室からいなくなったのがばれるのは時間の問題だったし、疑われるのは離れにいた私達だろうから、この方がかえって安全かと思って。子供達を説得するのが大変だったわ」


 そう、何人かの子供達は魔王様から離れ、冒険者の影に入る事を怖がった。

 疑いの目をこちらに向けている間に宿から安全に逃げさせる為、そしてダンジョンにはベルガー達が待機している事を魔王様が説明して、やっと納得したのだ。


「魔力が戻ったからといって自分の力を過信するな。

 相手は魔物を狩る事を生業(なりわい)にしている人間達だ。

 ダンジョンに着いたらベルガー達が見つけてくれるだろう。

 それまで決して影からでないように。()()()()()()


 その言った時の魔王様の威圧はすごかった。なんか、どす黒いオーラが見えた。

 子供達は声も出せず、涙目になりながらコクコクと(うなず)くしかなかった。

 ちょっと可哀想な気もしたけれど、子供達の安全を考えての事だ。


「最後に残った冒険者達も魔王様が上手く誘導してくれたから助かったわ」


「・・・あいつら死なねえよな?」


「知らないとはいえ子供達を送ってくれた相手よ?ベルガー達も加減してくれるでしょう」


 冒険者達が気絶している隙に子供達を保護するよう、魔王様から念話で伝達してある。


「そういや、書類が無くなったとか騒いでたな。あれは一体何だったんだ?」


「多分子供達を買っていた顧客のスケジュールだったんだと思う。

 鍵を取りにキムの部屋に入った時に机の上にあったのよ。ちょっと困らせてやろうと思って、あいつのポケットに入れといた」


「じゃあ、やっぱりお前の仕業だったのか?えらい大騒ぎになったじゃないか」


「ええ、正直ここまでとは思わなかった。子供達の事は他の従業員にも秘密みたいだったから、おおっぴらには探せなかったみたいだけど、こっちは冒険者達まで巻き込んだわね。悪い事したわ。

 まあ、計算通り私達を疑ってくれたおかげで、財産没収するという目的が達成されたけど」


 私がそう言うと、ラーソンはまたもや口をアングリと開けた。


「おいおい、俺たちの目的は子供達の救出だっただろ!?いつの間に財産没収になったんだよ」


「あいつの部屋を見たら腹が立ったのよ。子供達を泣かせて作ったお金で贅沢三昧してたわ。

 それに子供達を逃がしても、ここがある限り別の子が犠牲になるかもしれない。

 欲の塊みたいな男にダメージを与えるには、財産を取り上げて惨めな思いをさせればいいと思ったの。

 連れ戻された時は商談に間に合わなかった事を理由に責任を取らせようとしたけど、あいつらが暴れてくれたおかげでスムーズに事が運んだわ」


「なんてこった。あいつらお前の手の平の上でまんまと踊らされたって事かよ。恐ろしい奴だな」


「魔王様は面白いって言ってくれたわよ」


 私がそう言ってにっこり笑うと、ラーソンは遠い目をしてボソッと呟いた。


「・・・シヴァの奴、絶対尻に敷かれてるんだろうな」


「え?何か言った?」


「いや、何でもねぇよ。さて、次は(ほろ)の修繕にとりかかるとするか」

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