駆け引き
キムの勝ち誇った顔が、私を追いつめて楽しんでいたときの赤い髪の男に見えてきて、私は気分が悪くなった。
(自分の悪事を棚に上げて女神様への誓いで相手の動きをコントロールしようなんて。
こいつ、間違いなくあの混血児と血がつながってるわ)
「どうした?顔色が悪いぞ。まあ、当然だな。出来る訳がない。誰だって命が惜しいからな」
キムの言葉にむっとした私は言い返した。
「じゃあ聞くけど、女神様への誓いで私達の無実が証明されたら、商品を駄目にした責任は取ってくれるんでしょうね?」
「何だと?」
「昨夜も言った通り、私達は首都へ店を出す為の商談に行く途中だったのよ。
だけど盗人の疑いをかけられた挙げ句、商談に使う商品をこんな風に滅茶苦茶にされたのよ?
謝って済む問題じゃないわ」
「その通りだ。約束の時間に間にあったとしても、こんな状態では商談をまとめることはできない。
あなたには我々の事業を邪魔した責任をとってもらう。
まず、我々の潔白が証明された暁には、この『ドルト』を譲ることを女神様に誓ってもらおうか。その後ならば、我々も女神様の誓いを行おう」
「なっ・・・!」
思っても見なかった展開にキムは口を開けたまま固まった。
「昨夜も言った通り、菓子店を開くかたわら酒蔵を作る事も予定していた。
これだけの敷地があれば十分だ。施設を少し改造すればいい。
菓子店の方は街から距離があるのが難点だが、うちの商品の味を知れば向こうから買い付けにくるだろう。手に入りにくいものならば、希少価値もあがる」
「え?まずは手頃な価格で広く浸透させるんじゃなかったんですか?」
「当初の予定地に店を構えられないなら、戦略を変える必要がある。それにお前一人で作れる量は限られてるだろう」
「それもそうですね」
今後の販売戦略を練り始めた私達をあっけにとられた様子で眺めていたキムが、ハッと我に返った。
「おい!何を勝手なことを言っている!?どうせハッタリだろう。その手には乗らんぞ!」
「勝手なことを言ってるのはお互い様でしょう。
私達が書類を持ってないのは取り調べでわかったはずよ。
それでもまだ疑うってことは、よっぽど確信があるのよね?
ハッタリと思うんだったら、若様の条件を飲んで私達に女神様の誓いをさせてみればいいじゃない」
キムを挑発しながら、私は謁見の間で混血児と対峙した時を思い出していた。
(あの時はシヴァが側にいて、恐怖でくじけそうになった私を叱咤してくれたっけ)
ドッドッドッドッと自分の心臓の音が大きくなり、緊張している事がわかった。
私達の方をじっと睨みつけていたキムが口を開いた。
「宣誓によってこの三人の潔白が証明されたら、商談の邪魔をした責任を取って『ドルト』の所有権をこの青年に譲る事を女神様に誓おう」
(そんな、まさか・・・!)
驚く私達を見て、キムはニヤリと笑った。
「そんなハッタリが私に通用すると思ったか?残念だったな」