反論
中庭に戻ると、私達の荷馬車はひどい状態になっていた。
幌はぼろぼろに切り裂かれ、荷物はどれもひっくり返されていた。
試食用に用意した焼き菓子は地面に転がり落ちていて、そのうちのいくつかは踏みつぶされている。
着替えの服やお菓子の金型など、積んでいた荷物は手当り次第に地面に投げられ、転がった酒樽からは中身が溢れて地面に赤紫色のシミをつくっていた。
「ひどい!何これ!?」
思わず声を上げた私をキムが血走った目で睨んだ。
「おい!やっぱりこの女が持ってたんだろう!?さっさと書類を渡せ!」
「持ってません」
「二人掛かりで確認しましたが、書類はお持ちではありませんでした」
「馬鹿な!そんなはずはない!絶対にコイツらが犯人なんだ。拷問してでも吐かせてやる!」
キムが掴み掛からんばかりに私に迫ってきた。
私は身を翻し、若様達の元へ走りながら叫んだ。
「いい加減にして!違うって言ってるでしょう!?
人を疑う前にもう一度部屋の中を良く探して見なさいよ!
どこかに紛れ込んでるんじゃないの!?」
「お前なんぞに言われずとも何度も探したとも。
今回の事は全部お前達が仕組んだんだろう。
昨夜の酒や菓子に眠り薬を仕込んでいたに違いない!
俺の目はごまかせんぞ!この盗人どもめ!!」
若様が私を背後に庇い、キムに向き合った。
「これ以上の言いがかりは止めてもらおうか。
商談に使う大事な商品に薬を入れるような愚行はしない。味が変わるからな。
酒なら私も下男も飲んだ。菓子は従業員や冒険者達にも食べてもらっている」
「そいつらもみんな眠ってたろうが!」
「夜だぜ?うまい酒飲んだ後、気持ちよく眠って何が不思議だってんだよ」
「そうよ。それに何かを盗むつもりなら、まず見張りの人達に薬を盛るわよ」
私達のいい分に、周りの従業員や残って成り行きを見守っていた冒険者達がそれもそうだと納得した。
「もし俺が犯人なら眠り薬なんて回りくどい事せずに毒を入れるね。
その方が確実だ」
ダンが剣を弄びながら馬鹿にしたように言った。
「それに、菓子なら俺も貰って食べた。
何の異常もないどころか、昨夜は一晩中起きて水鹿を追っ払ってた。
往生際が悪いぜ、旦那。さっさと自分の過ちを認めて詫びたらどうです?」
ダンの言葉にキムは怒りで顔を真っ赤にしてブルブルと拳を震わせた。
しばらく地面をじっと見て何やら考えていたキムは、やがてニヤリと笑って私達を見た。
「いいだろう。犯人じゃないというなら女神様に誓ってみせろ。
無実だというなら簡単に出来るだろう?」