招かれざる者3
国の歴史や女神様の偉大さなど、関係あるような無いような、無駄に長い話に付き合わされた後、私は一つの結論に達して口を開いた。
「・・・つまり、あなた方はうちの息子に死ねとおっしゃってる訳ですよね?」
「いえ、我々はそんな事は一言も・・・」
「言ってるのも同然でしょうが!」
怒り心頭だった私は、司祭の言葉を遮って声を荒げた。
神官のリアムと共に話し合いに同席していた二人の司祭は、私の様子に驚き、目を剥いて仰け反った。
聖職者である彼らは、このように食って掛かられた事がないのかもしれない。
しかしリアムは机の上で祈るように手を組み、瞑想しているかのごとく目を閉じて静かに座っていた。
私は冷静さを取り戻すべく深呼吸し、努めて静かに言った。
「魔王の復活で、これまでよりも魔物の脅威にさらされているんですよね?」
「その通りです。魔王の影響で森に住まう魔物たちは極めて危険な存在となりました」
「国民へ被害が及ぶ前に、速やかに討伐しなければなりません。ご理解下さい」
「国民に危険が及ばないよう討伐する、までの流れは理解できます。理解できないのは、なぜ、うちの息子がその任務を負わなければならないのかです。あの子は、この間13歳になったばかりの普通の子供ですよ。魔法はおろか、武術の心得もありません」
幼稚園の頃は大人しくて、女の子に泣かされていたくらいだ。
「しかし女神様の選ばれた勇者です。魔王を倒す事ができるのは、勇者だけです」
「なぜ、そう言い切れるんですか?」
「文献にそう記されているからです」
「はあ!?」
あまりにも間抜けな答えに、思わず大声が出てしまった。
「魔王は100年の周期で復活します。我々の祖先は、次世代の為にと文献を残してくれました。それによれば、女神より選ばれ祝福を受けた者は、魔王を封じる希有な力を得ると記されています」
「・・・勇者が負ける事はないんですか?」
「これまでに、勇者が魔王に負けたという記録はございません」
(何だろう。なんか、引っかかる。本当に、信じても大丈夫なんだろうか?)
「魔王討伐した後、元の世界に帰る事はできるんですか?」
「いえ、残念ながらその方法は記されていません」
(帰れないのか。
そうすると、この世界で生きていく事になるのよね。
その後の生活の保障とか、どうなってるんだろう?)
「歴代の勇者たちは、魔王の討伐後どうなったんでしょう?」
「それについても記されておりません」
「はあ!?」
二度目の大声が出てしまった。
「いや、普通あるでしょう?
国に帰ってお姫様と結婚したとか、多額な報酬を貰って幸せに暮らしましたとか、めでたしめでたしな展開が!」
司祭たちは黙っている。
「・・・つかぬ事を伺いますが、魔王討伐の報酬はなんですか?」
「神殿にその名が刻まれ、後世まで讃えられるという名誉が与えられます」
「はあ!?」
(名誉で腹がふくれるか? 無理だ、冷静になんてなれない。)
「自分たちの都合で無関係な子供を強引に呼び出して、命懸けの仕事を報酬もなしにさせるんですか?
この国の大人たちは、一体何をしているんです?
100年の周期で魔王が復活するとわかっているのなら、対策を立てる事はできるでしょう!?軍隊を編制したり、他国と同盟を組んだり、過去から学ぶ機会はいくらでもあったはずです。
私の息子にも、過去の勇者達にも、それぞれの生活や家族や夢があったんです。それを奪う権利は誰にもないわ!勝手な使命を押し付けないで!」
一気にまくしたてたから、息が上がってしまった。
フーッ、フーッと興奮して肩で息をしている私を、アルヴィンはショックを受けたような顔で見つめている。
「よくわかりました」
それまで静かに座っていたリアムが口を開いた。
良かった、わかってくれた、と思った私の耳に、信じられない言葉が飛び込んできた。
「あなたが、何の力も持たない、普通の人間だという事が」