取り調べ
中庭にはまだ何組かの冒険者のパーティが残っており、従業員達から荷物を受け取っていた。
怒り心頭といった様子の冒険者達に従業員達は必死で謝っていたけれど、キムはそんな事に目もくれずにウロウロと歩き回りながら悪態をついていた。
「くそっ!やっぱり犯人はあのキーナ人達か!許さんぞ!必ず後悔させてやる!」
ダンが私達を連れ戻して中庭に入ってきたのに気づいたキムは、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「ピート!タイラー!奴らの荷馬車をくまなく探せ!」
キムに命令された二人は荷馬車に近づくやいなや、いきなり幌を切り裂いた。
「おい!何をする!?」
あまりにも乱暴なやり方にラーソンが荷馬車から降りて抗議すると、男の一人が剣の柄でラーソンを殴り、ラーソンはその勢いで倒れた。
「だまれ、盗人ども!大人しくしていろ!」
殴られたラーソンのこめかみから血が流れた。
私は慌てて荷馬車から降りると、ハンカチでラーソンのこめかみを押さえた。
「ラーソン!大丈夫?」
「ああ、蚊に刺された程度だ。どうってことねぇよ」
若様も荷馬車から降りると、泰然たる態度でキムを見返した。
「私達は犯人じゃない。ここに戻ったのは無実を証明する為だ。乱暴な真似はやめてもらおう」
若様の静かな抗議に、キムは罵声を浴びせかけた。
「笑わせるな。調べてみればすぐにわかる事だ。おいっ!なにをモタモタしている!?とっととあいつらの身体検査を始めないか!」
キムに怒鳴られた従業員達があわててこちらへ走ってきたかと思うと、そのうちの一人が私は羽交い締めにし、別の男が上着に手をかけた。
「ちょっと!いきなり何するの!?」
「暴れるな。旦那様の書類を持っていないか身体検査をさせてもらう」
(は?この場で?こんな公衆の面前でそんな恥ずかしめを受けるの?冗談じゃないわ)
目の前の男を蹴っ飛ばしてやろうとした時。
「その手を離せ。相手は女性だぞ。それにまだ犯人だと決まった訳じゃない。アン、キャシー、ここから一番近い空き部屋にこの人を連れて行って調べてくれ。それでも心配なら誰か一人戸口で見張ってろ」
驚いた事に、彼らを諌めてくれたのはダンだった。
彼の冷静な態度と的確な指示に、従業員達は我に返ったようだった。
「ダン!何を勝手な事をしている!?何様のつもりだ!?」
「落ち着いて下さい。彼らが犯人じゃなかったらどうするつもりです?」
「だまれ!宿の従業員から人望があるからって自惚れるな!私に逆らうなら、お前は首だ!!」
ダンが口を開く前に、若様が前に進み出た。
「先程も言ったように、私達がここに来たのは身の潔白を証明する為だ。納得するまで調べるがいい。昨夜も言った通り、商談が控えているんだ。さっさと終わらせてくれ」
キムはふんっと鼻を鳴らし、手をぞんざいに振ると、従業員達が若様とラーソンを取り囲んだ。
「どうぞこちらへ」
私は女性二人に連れられ、宿の空き部屋で身体検査を受けた。
私が何も持っていない事が証明されると、二人は泣きそうな顔で詫びてきた。
「こんな、疑うなんて失礼な事をして、すみませんでした」
「いいのよ。あなた達が悪い訳じゃないわ。確かに状況的に怪しいのは私達だもの。だけどここのご主人があんな人とは思わなかったわ」
「ええ、私達も驚いてるんです。確かに旦那様は冒険者達よりも、たまにくるお客様を大事にしていたようですが、ここまでとは・・・」
「どういう事?ここは冒険者専用の宿なんでしょう?」
「ええ。でも二年くらい前からかしら・・・たまに高い身分の方とか、羽振りのいい商人とかを離れに招くようになって、どんどん旦那様の生活も派手になっていったのよ」
「そうそう。宿の仕事はダンにほとんど任せっきりで、離れからでるのは自分の客を迎える時だけになってたし。準備は私達にさせるくせに、いざ接待になると誰も近寄らせなかったわ」
「じゃあ、私達も今後ここの顧客になるかもしれないっていう計算があって離れに泊まらせた訳ね。昨日はこんな大きな宿のご主人だけあって、愛想が良くて親切な方だと感心したのに」
人ってわからないものね〜と呟く私に、二人は顔を見合わせた。
「たぶんもうドルトはおしまいです。少なくとも冒険者の宿としてはやっていけません」
「ダンがいなくなったら、私達これからどうなるのかしら・・・」
不安げに肩を落とす二人に私は言った。
「さっき門ですれ違った冒険者の人が言ってたんだけど、ここのご主人はもしかしたら結構ヤバい事をしてたんじゃない?あなた達も厄介ごとに巻き込まれる前にさっさとここを出た方がいいかもよ」




