スフィア2
児童虐待の表現があります。苦手な方はスルーして下さい。
こちらの話を読まなくてもストーリーは繋がります。
次回から通常の話に戻ります。
ある日、とうとうスフィアは指名された。
彼女を指名したのは、初めて見る若い男だった。
その男はとても良い身なりをしていて、今まで来た客の誰よりも偉そうだった。
親子と言ってもいい程ずっと年上の宿の主人が、ぺこぺことその男に媚び諂っているのが、スフィアの目には奇妙に映った。
「さすがお目が高い。この娘はまだ誰の手も付けられていません。初物をごゆっくりお楽しみください」
宿の主人はそう言い残すと、他の子供達を連れて部屋から去って行った。
一人取り残されたスフィアはどうすればいいかわからず、男から近くに来るよう命じられて素直に従った。
「おいで」
おずおずと男の前に立つと、膝の上に座らせられ髪や頬を優しく撫でられた。
「お人形みたいに可愛い子だ。いい子だね」
知らない男に触られるのは落ち着かなかったけれど、特に嫌な事もされなかったので、スフィアは大人しくされるがままになっていた。
そのうち男の手は胸や太ももに伸びてきた。
ぞわぞわと全身に悪寒が走り、スフィアは逃げようともがいた。
「暴れちゃ駄目じゃないか。きみはお人形なんだから」
男は片手でスフィアの両手首をひねり上げると、ベッドの上に転がした。
「大人しく言う事を聞けない悪い子には、罰を与えなきゃね」
そう言いながらスフィアの服を剥ぎ取った。
「さて、魔物の身体が人間とどう違うのか、確かめてみよう」
男はそう言って、スフィアの全身を触り始めた。
「特徴的なのはこの耳と尻尾だね。触り心地は滑らかで気持ちいい。うん、悪くない」
男はスフィアを俯せにして、しばらく尻尾の感触を楽しんでいた。
やがてそれにも飽きたのか、手を尻尾の付け根から下へと伸ばした。
「ここは人間と一緒だね。柔らかくて程よい弾力があって、肌もすべすべで、いい感触だ」
男はスフィアの事を「物」としか見ていなかった。
スフィアは恐怖で声も出ず、ブルブル震えながら時が過ぎるのを待った。
(朝になれば檻に戻れる。朝になれ、早く、朝になれ)
目をぎゅっと閉じて、ただひたすらそれだけを念じた。
突然、男の手がスフィアの肌から離れた。
終わったのかと思って目を開けると、男は服を脱いで裸になっていた。
(え?なんでこの人、裸になったの?)
スフィアは男の目的がわからず、ぽかんとした。
男はスフィアを仰向けにひっくり返すと、彼女の両足を持って思い切り広げ、のしかかった。
そこから先は地獄だった。
突然、身体の奥を熱い塊で穿たれ、あまりの痛みにスフィアは泣き叫んだ。
どんなに許しを請うても男はスフィアを責めるのをやめなかった。
両手をがっしりと捕まれ、逃げる事も抵抗する事も出来ず、恐怖と痛みに耐えるしかなかった。
朝が来て、檻の中に入れられて、ようやくスフィアはホッとした。
身体の芯がじんじんと痛んだけれど、二日もすれば元に戻った。
けれど、踏みにじられた心の傷はどれだけ時が経っても消える事はなかった。
檻から出るのが怖くなり、出るのを渋っていると髪を掴まれて引きずり出された。
客が別の子供を指名すると、自分じゃなくて良かったとほっとした。
けれど同時に、そんな事を思った自分を恥じた。
その日を境に、スフィアは毎日女神様へ祈るようになった。
あの赤い髪の男に捕まってから、魔力は使えなくなり、自分たちだけで逃げる事もできず、ただただ祈る事しか出来なかった。
(お願いです、女神様。どうか私達を見捨てないで下さい)
◇◆◇◆◇◆◇◆
「みんな無事?遅くなってごめんね。助けにきたわよ」
(・・・女神様?)
優しそうな女の人の声に、スフィアは顔を上げた。
黒髪の女の人が檻に手をかけてこちらを覗き込み、スフィアと目が合うと驚いた顔をした。
「・・・なんだ、人間か」
スフィアは心底ガッカリした。やっと自分の願いが届いたと思ったのに、期待を大きく裏切られた。
「今すぐここから出してあげるからね」
女の人は真剣な顔をして、檻の鍵を開けようとしていた。すぐに鍵を開けられないところを見ると、ここの人間ではないらしい。
(本当に助けにきたの?でもあんな弱そうな人が来たところで、逃げられっこないわ)
「やった!開いた!みんな早く出て!」
檻の扉が開いても、誰も動こうとしなかった。皆、スフィアと同じような考えらしい。
「私は確かに人間だけど、助けにきたのは本当よ。魔王様もここに来てる。皆を迎えにきたの」
その言葉にスフィアはカッとなって叫んだ。
「嘘つき。魔王様は封印されてるのよ。そんな事みんな知ってる」
「本当よ。半年くらい前に復活されたの。皆の事を心配しているわ」
そんな都合のいい事、到底信じられなかった。じっと睨んでいると、何やら考え込んでいた女の人が再び口を開いた。
「ねえ、あの赤い髪の男はもういないわ。みんなあの男に支配されてたから抵抗できなかったんでしょう?自分の力が戻っているのを感じない?試してみて」
(え?今、なんて言った?)
数人の子供が反応した。
「あいつがいなくなったって本当?」
「ええ。私がここにいるのは、魔王様達があいつをやっつけて情報を引き出したからよ。みんな、あなた達を心配してるわ」
隣の檻で、フィンがすぅっと息を吸い込んだと思ったら、口から炎を吐き出した。
炎は女の人の目の前まで伸びた。
「うわっ!」
女の人は驚いて尻餅をつき、ばつの悪そうな顔をしながら腰をさすっていたけれど、怒らなかった。
檻の中から無理矢理連れ出す事はせず、じっと私達を待っていた。
「本当だ。力が戻ってる」
「じゃあ、あいつがいなくなったって本当なんだ!」
「私達、本当に助かるの!?」
「ここから出られる?」
「そうよ。だから早く出てきて。みんなで家族の所に帰るのよ」
魔力が戻ってきて、私達は逃げる希望が持てた。
もしこの人が私達を騙そうとしていても、みんなで力を合わせれば、逃げる事も殺す事も可能だ。
私達が立ち上がると、その人は一瞬、泣きそうな顔をした。
「みんな歩ける?階段を上るのがきついかもしれないけど、少しだから頑張って」
その人は私達を気遣い、励ましながらゆっくりと前を歩いた。
無防備に背中を向けるその人を、信じていいかどうか、まだわからなかった。




