離れ
離れは文字通り冒険者達の泊まる建物から離れており、屋根付きの渡り廊下を五分程歩かなければならなかった。
渡り廊下はアーチ型の美しい柱に支えられ、床は美しい石畳で出来ていた。
途中、二ヶ所にソファーが設置されており、中庭に作られた人工池や美しく管理された庭園を楽しめるようになっていた。
離れの建物もまた趣があった。コの字型のシンメトリー配置の平屋建てで、柱は渡り廊下と同じく美しいアーチ型をしており、天井には花を模した美しいパターンが描かれていた。
冒険者用の建物は、部屋数を確保する為にあえてシンプルなのかもしれなかったが、離れの建物が不必要に贅を尽くしているのは誰の目にも明らかだった。
「これは見事ですね。良い趣味をしておられる」
「ありがとうございます。時々ですが、こちらを商談の場に利用されるお客様もいるのですよ。そういうお客様には、そのままお泊まりいただいています。今夜は来客の予定がありませんので、遠慮なくこちらをご利用ください」
キムはそう言って、私達を部屋へ案内した。
部屋には広いベッドの他に、ソファーと丸テーブルが備えられ、水差しと果物の入った籠も置かれていた。
「ご希望通り三部屋ご用意してます。お好きなところをお選びください」
「ありがとうございます。下男はおそらくこちらに顔を出さないでしょう。朝まで食堂で飲み明かすか、荷台で寝るかするはずです。お言葉に甘えてこちらとこちらの二部屋を使わせてもらいます」
「はい。ごゆっくりお休みください。私の部屋は反対側にありますので、これで失礼します。明日の商談がうまく行くよう祈ってますよ。それではおやすみなさい」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
私達はキムが廊下の向こうに消えるまで見送った後、部屋に入った。
魔王様はソファーに腰掛け、くつろいだ様子で部屋を見渡した。
「ずいぶんと快適な部屋だ。ここを使う客はかなり特別な存在らしいな」
リラックスした様子とは裏腹に、その言葉と目には静かな怒りが込められていた。
「恐らく金と地位のある上流階級の人間でしょうね」
欲にまみれ、金と暇を持て余した人間が悪事を働くのは、異世界でも同じようだ。
「ここまでは順調にこれたが、これからどうする?」
「そうですね。宿の主人と冒険者達には予定通りお酒とお菓子を食べさせる事が出来ましたが、見張り全員はやはり無理でした。今からこちらから勧めるのは不自然でしょうね」
シヴァが混血児から引き出した情報によると、子供達は離れの地下に監禁されていると言う事だった。
思いがけず離れに泊まる事が出来て、監視の目をかいくぐるリスクは減ったのはいいけれど、見張りに酒や菓子を振る舞う機会が無くなってしまった。
「では、もうしばらくしたら外の者達に働いてもらおうか。それまで少し休むとしよう」
「はい。果物でも剥きましょうか?」
「いや、今はいい。それにしても急に料理をしたのには驚いたぞ」
「だって不味くなかったですか?あのスープ舌触りも最悪だったし、土の味がしましたよ。若様も一口飲んで無表情になってましたからね?」
「ああ、お前も相当な顔をしてたぞ」
魔王様はくっくっと愉快そうに笑った。そうしていると年相応の青年に見えた。
「ラーソンも見事だったな。変装もせずにそのまま冒険者達に溶け込むとはたいした奴だ。ミホの見立て通りだったな」
「私も驚きました。あっという間に人気者になっちゃって、すごいですね。下手に変装するより、堂々としてたのが良かったのかもしれません」
(まあ彼の事だから、素でお酒を飲むのを楽しんでいるのかもしれないけど)
「菓子は余ってるか?」
「ええ。半分程残ってます」
私は菓子の入った籠を見せた。
「これと、これはまだ食べた事がなかったな」
「・・・今度あらためて作ります。今は我慢して下さい」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、そろそろ毒の効果が現れる頃だな」
魔王様はしばらく目を瞑り集中していた様子だったけれど、すぐに目を開けると私を見た。
「念話でベルガーに命令を出した。しばらくしたら外が騒がしくなるだろう。見張りの目がそちらに向いている間に子供達を解放するぞ」




