珍客
受付の前ではキーナ人の一行がキムを待っていた。
キムは悠然と佇む青年を一目見て、部下達の判断が正しかった事を納得した。
(なるほど。この若さでこれほど威厳を感じさせるとは只者ではないな。人を使う事に慣れている人間だ)
キムはニコニコと愛想の良い笑顔を浮かべて挨拶をした。
「ようこそ、ドルトへ。この宿の主人のキムと申します。遠いキーナ国から来られたとか。歓迎しますよ」
「ありがとうございます。アーノルドです。この度のご厚意感謝します」
アーノルドは右手に胸を当てて軽く会釈した。ただそれだけの仕草が優雅で洗礼されていた。
(とても田舎から出てきたとは思えんな。豪商のせがれか貴族の御曹司の仮の姿というところか・・・)
キムは愛想笑いを崩さず相手を観察した。
「冒険者用の宿にも関わらず、私達を受け入れて下さり本当にありがとうございます。おかげで助かりました」
青年の傍らに立つ女が頭を下げた。
(ほう、これはなかなか)
この辺りではあまり見かけない黒髪のエキゾチックな美人にキムは興味を持った。
「いえいえ、女性の身で長旅は大変だったでしょう」
「お気遣いありがとうございます。国を出るのは初めての事なので戸惑う事ばかりです」
「菓子職人と聞きましたが、女性では珍しいのでは?」
「ええ、ですが彼女の腕は確かですよ。彼女がいなければ店を構えようとは思わなかった」
アーノルドの言葉に女がはにかんで頬を赤らめた。
次にキムの目は、さっきから気になってしょうがなかった、もう一人の人物に注がれた。
何しろその男の風貌はドワーフそのものだったのだ。背丈は女よりも低く、筋骨隆々で長いひげを蓄えている。
「それで・・・ええっと、こちらは?」
「昔からうちに仕えている下男です。こう見えてなかなか有能でして何かと重宝しています」
「そうでしたか。失礼ですが、その・・・ドワーフに似てますな」
その言葉にアーノルドは微笑で返し、女は呆れた目をして下男を見た。
「ほら、だからせめて髭を剃った方がいいって言ったじゃない。絶対に間違われるからって」
「バカ言え。俺のようなチビが男らしく見せるには、筋肉鍛えて髭を伸ばすしかないだろうが。だいたいここまで伸ばすのに何年かかると思ってんだ」
「知らないわよ、そんな事。筋肉はともかく、そんな髭だと絶対モテないわよ!」
「俺がモテないのは髭のせいじゃない。若様の側にいるからだ。若様と比較されたら誰だって勝ち目ないだろうが!」
「やめないか、お前達。ここは屋敷じゃないんだぞ」
アーノルドに静かに諭されて、二人はピタリと口喧嘩をやめた。
「お見苦しいところをお見せしてすみません。二人とも腹が減って少々気が立ってるようです」
「いや、こちらこそ失礼なことを言って申し訳ない。今、離れに部屋を準備させてます。それまでこちらでお食事を取ってお待ちください」
キムは三人を伴って、冒険者で溢れる食堂の扉を開いた。