一人の時間2
「「「行ってきます」」」
「はい、行ってらっしゃい。頑張ってね」
蓮とショーンは仕事に、ガロンは昼間の訓練に。
皆が一斉にいなくなり、一気に静かになった。敷地内には私一人。
私のテリトリーである食堂で寂しいと思うなんて。人の気配がないだけで、どうしてこうも雰囲気が違うのだろう?
工房にこもって仕事をしてても、窓から畑仕事をするシヴァの姿が見えたし、ラーソンが何かを作る音が聞こえていた。だから安心して一人でいられたんだ。
あまりにも静かすぎて、好きな曲を歌いながら食器を洗った。
食器を洗った後は、ベッドリネンの洗濯。
ベッドリネンの洗濯は結構ハードだ。タライにぬるま湯と細かく削った石鹸を入れ、シーツを入れて足踏み洗い。
やってるうちに楽しくなって来たけど、結構な運動量だ。
「は〜、やっと終わった。ちょっと休憩しよう」
庭に設置してある椅子に腰掛けて、干したばかりのリネンをボ〜ッと眺める。
よく晴れた青空の下、風にはためく白いシーツ。
まるで洗剤のCMのような爽やかな光景を前に、
(赤ちゃんが産まれたら、洗濯物が倍に増えるなぁ)
なんて、現実的な事を考えてしまう私。悲しいけど、きっと感性が死んでるのね。でも切実に洗濯機が欲しい。
Q.なぜ洗濯魔道具が発明されていないのですか?
A.貴族:そもそも自分で洗わないし、新しい服を買うので必要がないから。
平民:服をあまり持ってないし、洗濯の頻度も少ないから手洗いで十分。
この世界の人達にとって、洗濯機は生活必需品じゃないらしい。
ううん、違うな。自分の代わりに洗う人がいるから、というのが正しいかも。
その証拠に洗濯屋は沢山あるらしく、女性にとって貴重な就職先になっている。
以前、洗濯屋で働いていたロザリン曰く、
「かなりキツイわよ。腰痛になったり、私みたいに手荒れがひどくて生活に支障が出る人もいるわ」
との事。半日も手洗いをしていたら、体調も崩れるだろう。
私も手洗いだけど、ラーソンに頼んでローラー式の簡易脱水機を作ってもらったから、すごく助かってる。これがあるからこそ、リネンの洗濯も一人でできた。
「そういえばキャンプ用品買いに行った時、手回し式の洗濯機もあったっけ」
バケツにハンドル付きの蓋がついていて、洗濯と脱水が出来る優れ物。
あの時は「へ〜、こんなのあるんだ」と感心しつつも華麗にスルーしちゃったけど、買っとけばよかった。
あれ、ニルスに説明したら作ってもらえるかな。似たような構造で足踏み式にしたら、洗濯容量が増やせるかも。
試作品を作ってもらって、いい感じだったら商品化して、洗濯屋さんに売ろう。従業員の負担が減るし、スピードも倍になるし、冬場の洗濯の辛さから解放される。いい事づくめじゃない。
「うん、いける! 忘れないうちに企画書書こう」
詳しい構造はわからないけど、簡単な絵と仕様書を見せれば、ニルスならいい感じに仕上げてくれるはず。
事務所に行って、フンフン♪と鼻歌まじりに企画書書いて、ハッと気付く。
「日本語じゃん・・・」
詰んだ。やっぱり文字の勉強が必要だ。
蓮から借りた教材の箱を開けると、中にはカードが沢山入っていた。
シンプルで味のある絵の下に文字が書かれている。全て手書きだ。
「これ全部ショーンさんが描いたのかな? すごい」
花の絵のカードを手に取ってよく見ると、文字の下に小さく日本語が書かれていた。蓮の字だ。
「花・・・本・・・机・・・イス」
椅子はカタカナで書いてある。まだ漢字を習う前だったのかもしれない。
この時、蓮はまだ13歳。
目が覚めたら知らない世界で、私が死んだと聞かされて。
どれだけ不安で寂しかったろう?
日本とは全く違う環境で、戸惑うばかりだっただろうに。
それでもあの子は、識字率の低いこの世界で、学ぶことを諦めなかった。
勉強を続けられたのは、ショーンさんのお陰もあるけど、あの子自身のやる気と努力の賜物だろう。
蓮はずっと辛い現実と向き合って、頑張ってきたんだ。
当時の蓮の姿と気持ちを想像したら、胸がぎゅうっと苦しくなる。
(本当に・・・えらかったね)
愛しくて切なくて、あの子の書いた文字をそっと指でなぞった。




