一人の時間1
プリン専門店オープン前日、夜明け前。
シヴァとラーソンは特注した大型冷蔵庫や備品を馬車の荷台に積み終えると、御者台へ座った。
「それじゃあ、行ってくる」
「暗いから気をつけてね。はい、これ朝食。行く途中で食べて。皆によろしくね」
私はシヴァにバスケットを渡した。簡単につまめるよう、サンドイッチとリンゴ、お茶が入っている。
「ああ、夕方には戻る。留守を頼む」
「じゃあな、ミホ」
「行ってらっしゃい」
手を振って二人を見送った後、門の扉を閉めると途端に静かになった。
シヴァ達が帰ってくるまで、私は一人で半日お留守番。空を見上げると、星が綺麗に瞬いている。でも二度寝するには微妙な時間だ。
しばらくしたら、子供達とショーンが朝食を食べにやってくる。
(せっかく時間があるから、余った材料でデザートでも作るか)
サンドイッチを作る時に出たパンの耳を、くるくると端から巻いて串を刺す。フライパンにバターと砂糖を入れて中火で加熱。溶けたらパンの耳を入れて両面をじっくり焼いて、表面がキャラメル状になったらケーキクーラーに置いて冷ましてから串を外せば、なんちゃってクイニーアマンの出来上がり。
まだ少し時間があったので、ローズヒップティーを飲んで一息つく。
自分一人だけの為にお茶を用意するのは、随分久しぶり。窓の外に目を向けると、空が明るくなっていた。
(朝日が昇ったのね。そろそろスープを作ろう)
残念ながら外壁のせいで朝日は拝めないけれど、束の間の穏やかな一人時間を楽しむことが出来たから、私は気分よく朝食作りに取り掛かった。
*****
テーブルに料理を並べていると、ガロンがやって来た。
「ミホ、おはよう」
「おはよう。よく眠れた?」
「うん。あれ? 父さん達はいないの?」
ガロンが不思議そうに空席を見る。
「うん。お店に機材を届けに行ったの」
説明していると、蓮とショーンが食堂に入ってきた。
「おはよう」
「おはようございます」
「二人ともおはよう」
「あれ? シヴァさんとラーソンさんは? もう出かけられたんですか?」
二人の不在に、いち早くショーンが気づいた。
「ええ。人目につきたくないからって、夜明け前に出て行ったわ」
「じゃあ今日、お母さん一人?」
「うん。夕方までお留守番。こんな機会、この先もうないだろうから、久しぶりの一人時間を満喫するつもり」
そう言うと、蓮とガロンは顔を見合わせた。
「ほら、早く食べないと遅れるわよ」
「「いただきます」」
いつもより少ない人数だったけど、蓮とガロンを中心に会話が弾んだ。
「お母さん、今日は何して過ごすの?」
不意に蓮が私の予定を聞いてきた。
「天気が良さそうだから、ベッドリネンを洗濯して、その後は勉強をするつもり。今日までなかなか時間取れなかったからね」
「いい心がけですね。自分で良ければお手伝いしますよ」
識字率を上げるのが目標のショーンが、ニコニコと良い笑顔で申し出てくれた。
「ありがとう。でも蓮が教材一式貸してくれたから、一先ずそれで勉強してみるわ」
「教材一式?」
ショーンが怪訝な顔で蓮を見る。
「先生が俺に作ってくれたやつだよ。単語カードとその単語で書かれた本。それに俺のノートをつけたから、お母さん一人でも勉強できると思う」
「ショーンさんが書かれた本、読むのが楽しみです」
そう言うと、ショーンは真っ赤になって両手で顔を覆った。
「あれは・・・単語を覚えたか確かめるもので・・・内容は全くなくてですね」
「面白かったよ」
「俺も読んでみたい」
蓮とガロンの言葉にショーンはますます真っ赤になり、話を逸らそうと見慣れぬデザートを手に取った。
「ミホさん、これ新しいお菓子ですか? 可愛らしい形ですね」
「俺も気になってた。バターのいい香りがして美味しそう」
「お母さん、朝からお菓子焼いたの? なんて名前?」
蓮とガロンも皿に盛られた、なんちゃってクイニーアマンを手に取る。
(これをクイニーアマンと言ったら、フランス人に怒られるな)
「ええっと・・・パンの耳のキャラメリゼ」
「え? これパンの耳でできてるんですか? てっきり手の込んだお菓子だと・・・」
「うん。パンの耳をくるくる巻いて、バターと砂糖で焼いただけ」
へ〜っと言いながら一口食べた三人が、次の瞬間、目を見開いてパンの耳を見つめる。
「これ、売ったら絶対人気出ると思います」
「俺、今までパンの耳の事、誤解してた」
「俺も。パンの耳、ちょっと見直した」
子供達の中でパンの耳の地位が向上した模様。
気に入ってもらったようで何より。作った甲斐があったわ。
ようやく久しぶりに更新できました。
明日も更新できるよう、頑張ります。




