表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

548/554

星空市場4

「あっ、ガロンだ! おーい!」


 席に戻る途中、前方にガロンの姿を見つけて、蓮は思わず声をかけた。

 ガロンは蓮の声に振り返ったが、こちらの姿は人混みに紛れて見えないらしく、キョロキョロと辺りを見渡している。


「ガロン、ここだ」


 シヴァが声をかけて、ようやくガロンはこちらに気付き、ニコッと笑った。


「お疲れ。沢山買えたみたいだね」

「うん、お店の人に2本もおまけして貰った」


 ガロンは骨付きソーセージが山盛りの皿を両手で持ってご満悦だ。


「すごい。ラッキーだったね」

「うん。お店の人、すごく優しかった。試食もさせて貰った」


 ガロンがそう言うと、ラーソンが豪快に笑った。


「食った途端、『これ最高に美味い! 12本下さい!』ってガロンがデカイ声で注文したんだよ。おかげで客が次々と集まってきて、店主がお礼にって、おまけしてくれたのさ」


 美味しいと言うガロンの声に、嘘がなかったからこそだろう。


「レンが買ったのも美味しそうだね。いい匂いがする」

「うん。パンの器にジャガイモのピューレ入りのトロトロチーズが入ってるんだ」

「絶対美味しいヤツだ! 温かいうちに食べなきゃ!」

「うん、急ごう」

「父さん、早く早く」


 二人でシヴァとラーソンを促して、お母さん達が待つ席へと急ぐ。


(二人とも大丈夫かな。何事もなければいいけど)


 幸い、蓮の心配は杞憂に終わった。二人とも無事どころか、オリヴィアを挟んで何やら楽しそうに盛り上がっている。

 ホッとしてると、お母さんが気づいて笑顔で手を振ってきた。


「おかえりなさい、お疲れ様」


 先生とオリヴィアも、こちらを振り向いて笑顔で手を振る。 


「買い出しありがとう。どれも美味しそうですね」

「呼ばれたから来たわよ〜」


 三人から温かく迎えられたけれど、オリヴィアを前にして蓮は少し緊張した。

 戦争の時に森を派手に焼いてしまったから、彼女の中で蓮の印象は最悪なはず。これ以上、失敗は許されない。


「こんばんは、お久しぶりです」

「こんばんは。元気そうね」


 緊張しながら挨拶すると、オリヴィアは笑顔で挨拶を返してくれたので、少しホッとした。どうやら機嫌が良いみたいだ。


「オリヴィア、急な呼び出しに応じてくれて礼を言う」

「いいわよ。その代わりご馳走してもらうから」

「勿論だ。遠慮なく楽しんでくれ。ホットアップルサイダーとレモネード、どっちがいい?」

「ん〜、今の気分はホットアップルサイダー」


 シヴァはホットアップルサイダーをカップに注いで、オリヴィアに渡した。リンゴとスパイスの芳醇な香りが辺りに漂う。


「良い香り。幸福感が満たされそう」


 オリヴィアのカップに興味津々のお母さん。


「ああ、今の時期は一番人気だそうだ」


 そう言いながら、さりげなくレモネードをお母さんに渡すシヴァ。


「ありがとう。・・・あ、ホットレモネードだ。美味しい」


 お母さんは一口飲んで、満足そうに笑った。

 買ってきた料理をテーブルに並べ、全員のカップを満たして食事を再開。


「切り株チーズ、美味いな」

「中のチーズは勿論だけど、パンも美味しいわね」

「表面に散りばめられたゴマが、味に深みを出してますね」


 珍しい料理に会話が弾む。


「これってチーズフォンデュに似てるよね」

「そうね。個人的にはこっちの方が好きかも。今度作ってみようかな。大きめのハードパンを焼いて、厚みを1cm残して・・・ジャガイモは割合はどれくらいかしら」


 お母さんが料理を観察しながら、作り方をブツブツと呟いている。


(この調子なら、切り株チーズを家で食べられるかもしれない)


 そう思ってるとガロンと目が合った。同じ事を考えているのが分かって、二人でハイタッチする。楽しい。


「この骨付きソーセージ、美味いな。焼き加減も丁度いい」

「大きくて食べ応えがあるわね」

「ああ、味付けもしっかりしてて、エールに合いそうだ」


 ガロンの買ってきた料理も大好評で、皿はすぐに空になった。


「まだ皆食えるよな? デザート買ってきたぜ」


 そう言ってラーソンがテーブルに乗せたのは、皿を合わせてくっつけたような円盤型の謎の物体。

 どう見ても乾燥した土の塊で、俺もお母さんも先生も目が点になった。


「何これ? デザートどころか全然食べ物に見えないんだけど」


 お母さんが不審そうに塊をつつく。


「何だ、知らないのか? ふふん、まあ見てなって」


 ラーソンは得意げに言うと、徐にその辺の石を拾い、円盤の端を軽く叩いた。円盤はどうやら粘土で出来ていたようで、簡単にヒビが入る。


「じゃ〜ん、お宝のお出ましだ!」


 そう言って上部を取ると、中には新鮮な葡萄が3房入っていた。


「わぁ、葡萄じゃない! もう旬を過ぎたから、来年まで食べられないと思ってたのに」


 葡萄が好きなお母さんが、目をキラキラさせて手を伸ばす。


「ん〜、果汁たっぷりで美味しい! ラーソン、ありがとう」


 先生も葡萄に手を伸ばして一粒取り、マジマジと観察している。


「見た目は似てますが、品種が違うんでしょうか?」

「いいや同じだぜ。多分2ヶ月位前に収穫したやつだろうな」


 ラーソンが葡萄をもぐもぐ食べながら、なんて事ないように言った。


「ええっ!? 嘘でしょ? なんでこんなに新鮮なの?」

「時間を止める魔法ですか?」


 お母さんと先生の言葉に、シヴァとラーソンが顔を見合わせる。


「いや、魔法じゃない。昔から伝わる葡萄の保存方法だ。粘土と藁で器を作り、傷のない葡萄を入れて密閉すれば、半年は持つ」

「半年も? すごい!」

「どんな原理で? 誰が考えたのですか?」


 先生の質問にラーソンが首を傾げる。


「大昔、女神様が教えてくれた方法だって話だが・・・。ショーンが知らないってことは、人間は忘れたのか、それとも教えてもらえなかったとか?」


 先生はそれを聞いて、悲しそうな顔をした。


「女神様は平等に知恵を授けられたと思います。廃れた原因はいくつか考えられますね。一握りの人が情報を独占した為か、あるいは文献が紛失したか。そもそも文字を書ける人が少ないし、紙も今よりずっと貴重でしたから、文献自体が存在しなかった可能性もありますが」


 この知恵が広まっていれば、冬の貴重な栄養源になれたのにと、先生は少し落ち込んでいるようだった。


「気候が合わなかったとか、粘土の質が悪かったかもしれないよ」

「そうそう。条件が合わなくて保存に失敗したのが廃れた原因かも」


 俺とお母さんのフォローに、先生がハッとした顔になる。


「その可能性もありますね」

「そうそう。何なら来年から実験して、成功したら広めれば良いじゃない。失敗したらしたで、こっちから輸入すれば?」 


 お母さんの何気ない発言に、大人達全員が固まる。


「・・・我々と人間の間で交易が可能だと思うか?」

「一応和解したとはいえ、多くの人間を森に入れたくはないわね。荒らされたくないもの」

「そうですよね。個人的には賛成ですが、お互いの民の心情を考えると・・・」


 否定的な意見に、お母さんは首を傾げる。


「ん〜、別に森に人間を入れなくても、外に貿易や交流拠点を作ればいいんじゃない? というか、ツナ缶工場を作る予定の港町が自然にそうなると思うけど」

「どうしてそうなるんだ?」


 ラーソンの問いに、お母さんは自信満々に答えた。


「ツナ缶は食文化に新風を巻き起こす商品だもの。絶対に売れるわ。港町は商人や、缶詰の技術を学びたい人が集まるでしょう。多分、数年後にはかなり大きな街になるんじゃないかしら」

「その可能性は高いですね。長期保存が可能で旅の携帯食にもなる便利な品ですから。何より味も良い。商人は我先に買い付けに来るはずです」


 先生が頷く。


「買い占めて荒稼ぎしようとする不届者も出てくるだろうから、今のうちに売買に関する決まりを作っておいた方がいいかもね。森の民にも販売する予定だし」

「そうですね。トラブルを未然に防ぐ為にも、公平な取引を行えるよう調整しないと」


 先生はそう言うと、腕組みして宙をぼんやりと見始めた。


(あ、やばい。ゾーンに入り始めてる)


 一緒に暮らすようになって知った、先生の厄介な癖。

 この状態で目を閉じて顔が上になると、自分の考えに没頭してしばらく周りの声が聞こえなくなる。


「あのさ、使ってるお金が違うけど、それはどうするの?」


 全員の視線が俺に集まる。


「確かに、どちらの通貨でも使えるようにする必要があるな」

「そうね。それに両替所も必要ね」

「通貨の価値について、すり合わせが必要ですね」


 シヴァも話に加わって、色々意見を出し始めた。


「実際に販売できるのは、早くても二年後だろう。それまでに売買や技術提供に関する法律を作らなければ。ショーン、草案作りに協力してくれ」

「勿論です。ついでに街道の整備についても提案してみますね」


 先生とシヴァが議論すると、色々な意見がサクサク出できて、そのスピード感に驚く。数年先を見据えた多角的な物の考え方は、すごく勉強になるけれど。


(ツナマヨが食べたいだけだったのに、随分大ごとになっちゃったな)


 缶詰作りが国家事業になった時点で、十分大ごとではあるけれど、こんなに多方面に影響が出るなんて思わなかった。


「仮に港町が交易拠点になったとしても、そこに行くにはソルーナ共和国を通らなきゃいけないわ。安全性に問題があるわよ」


 オリヴィアの言葉に、先生が難しい顔をする。


「確かに野盗に襲われる可能性もありますね」

「下手すれば国際問題に発展するな」

「ソルーナ共和国に取り締まりを強化してもらうにしても、完全に防ぐのは不可能ですし」

「護衛をつければいいんじゃないか?」

「しかし我々が武装していると、人間側も警戒するだろう」


 また新しい議論が始まる。


「じゃあ、森に運河を作ったら? それなら目的地まで人間と接する事もないし」


 お母さんが何か思いついたらしく、明るく言った。


「船なら荷物も沢山運べるし、海の民も森に行き来できるようになる。我ながら良いアイデアだと思うけど、どう?」


 皆が呆気に取られてるのに気づかず、お母さんは話を続ける。


「あ、もう一つ思いついた。運河を作る時に掘った土で、海に人工島を作って、森の民専用の観光地にしたらどうかな。人数限定の日帰りツアーを組んで、綺麗な景色や海の幸を満喫してもらうの」

「面白そう。俺行ってみたい」

「確かに・・・楽しそうね」


 ガロンとオリヴィアの同意を得られた事で、お母さんは調子づいた。


「でしょう? そして森の方にも、海の民専用の食事処やお土産屋さんを作るの。季節の花とか果物とか、すごく喜ばれると思うのよね」


 お母さんの頭の中には未来の光景が広がっているのか、目を瞑って満足そうに頷いている。


(ここら辺で暴走を止めないと)


「お母さん、思い付きで好き勝手言うのやめなよ。缶詰工場だけでも大変なのに」

「いや、なかなか面白い構想だ。魔王様に進言してみる価値がある」

「そうね。ディランも興味を持つと思うわ」


 まさかシヴァとオリヴィアが味方につくとは。

 

「森と海の交流が実現すれば、民の生活はより豊かになるだろう」

「民の生活エリアって大体決まってるから、観光なんて殆ど誰もした事ないものね」

「うん。昼の時代で苦労した分、報われて欲しい。美味しい物を食べたり旅行したりして、思い切り楽しんで欲しいな。私、観光地用の特別メニューの開発する」


 まだ稟議に回してもいないのに、お母さんはすっかりその気だ。

 こんな風に周りを巻き込んで前に進むパワーは、どこから来るんだろう? 


「話し込んでたら、すっかり遅くなってしまったな」

「オリヴィア、来てくれてありがとう」

「良いのよ。おかげで楽しかったわ。また呼んでね」

「さようなら」


 オリヴィアを見送ってふと見れば、周りの客がソワソワした様子でこちらを見ている。話しかけたいけど遠慮している、そんな雰囲気だ。獣人は耳が良いから、話が聞こえたのかも知れない。


「なんかメチャクチャ期待されてるっぽいよ」

「あら、じゃあご期待に添えるよう、頑張って企画を通さないと。蓮もなんか良いアイデアがあったら出して」

「う〜ん、急にそんなこと言われても・・・」

「三日月班を海に連れて行くとしたら?」

「サングラス用意しなきゃ。あとアロハシャツと帽子も!」

「あはははは」


 なぜか大爆笑された。絶対可愛いのに。


 その後の帰り道は、お母さんと二人でカイルに似合う帽子のデザインについて、シヴァ達から呆れられるくらい熱く語り合った。最初から耳を出す穴を開けておくべきだとか、やっぱり天然素材がいいとか。最高にくだらなくて、だからこそ楽しくて。


 いつもの延長線上の、ちょっと特別なこの日の事を、俺はきっと何度も思い出すだろう。


 シヴァと並んで買った切り株チーズの重さ。

 初めて飲んだホットアップルサイダーの味と香り。

 柔らかな明かりに照らされた、お母さんの笑顔。


(お父さん、俺の心の支えになる幸せな思い出が、また増えたよ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
挨拶とはいえ蓮とオリヴィアのやり取りに美穂とショーン先生はノータッチなのが気になりました。 以前の感想でも言いましたが、蓮が森を焼き払ったのって美穂の詰めの甘さが遠因で、死んだ(ように見えた)ショーン…
 存じなかったので調べたらアフガニスタンのカンギナ(宝箱)という器を用いた葡萄の保存法で、ショーン先生のおっしゃる通り気候が合わないのかもしれません。  トマトやあんずを入れたりもする模様で、割れや…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ