星空市場2
旧年中は大変お世話になりました。
本年もどうぞよろしくお願いします。
感想や誤字報告、いつもありがとうございます。
「ガロンは食べたい物決まった?」
「うん、あっちの方で見た骨付きソーセージ」
「ああ、でっかくて食べ応えありそうだったよね」
「レンは?」
「最初に見たチーズみたいな奴」
「じゃあ、向こうの方だな」
2人の食べたい物は見事に逆方向だった。
「人も多くなってきたから、二手に別れよう。ラーソン、ガロンを頼めるか?」
「おお、任せとけ」
それを聞いたガロンは、
「買い物くらい1人でできるよ」
と、少しムッとしたように言った。子供扱いされて、面白くなかったんだろう。
「わかってる。だがラーソンと一緒だと、もっと楽しめるぞ」
「そうそう。値切り交渉の仕方、教えてやるよ。上手くやれば、おまけとか付けてもらえるぞ」
ラーソンがそう言うと、ガロンはパッと目を輝かせた。
「面白そう!」
機嫌を直したガロンに、シヴァはお金の入った小袋を手渡した。
「人数分・・・いや、少し多めに買ってきてくれ。他にも気になる物があったら買っていいぞ」
「わかった。レン、また後で」
ガロンはそう言うと、ラーソンと並んでズンズンと歩いて行った。
時間が経つにつれて市場は徐々に賑わいを増し、お店には行列ができ始めている。
(遅くなると、お母さん達が心配だな)
自分が一緒ならば大丈夫だとシヴァは言ったが、今は離れている。
「混んできたね。俺達も急ごう」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
シヴァは近くの木から大きな葉っぱを一枚ちぎり取り、指で葉の表面に何かを書いた後、ふぅ〜と優しく息を吹きかけた。すると葉っぱはヒラヒラと優雅に舞い上がり、やがて森の方へと消えていった。
「今のは?」
「思ったより時間がかかりそうだから、オリヴィアにミホ達の側にいるよう頼んだ」
「あ・・・」
やはり人間だけで魔物のテリトリーにいるのは危険なのだ。シヴァがガロンではなく、自分と一緒にいるのも、それが理由だろう。
もし襲われた時は先生が魔法で応戦してくれると思うけど、お母さんを守りながらじゃ不利だ。
(引き返した方がいいかな)
その思いが表情に出たのだろう。シヴァが安心させるよう、蓮の背中を優しく叩いた。
「大丈夫だ。個人的な恨みはともかく、人間だという理由で攻撃することは禁じられてる。オリヴィアに頼んだのも念の為だ。さあ、行こうか」
シヴァはそう言って歩き出したので、レンも横に並んだ。
「でも民は納得してないんじゃ・・・?」
「そうだな。だが、
『種族で差別し攻撃するのは、野蛮で恥ずべき行為だ。そんな品位のない人間みたいな者は、我が民には必要ない』
と魔王様が宣言された。その言葉に逆らう愚か者はいないだろう」
「うわぁ、辛辣・・・」
でも本当のことなので、反論できない。
「しかし、家族や友人、恋人・・・大切な者の命を奪われた悲しみや痛みを抱えている者は悔しい思いをしているだろう。いくら魔王様といえど、人の気持ちは変えられん」
「うん。俺もそう思う」
それは人間側にも当てはまることだ。
平和の為に魔物と友好関係を築こうと政府は頑張っているし、これまで敵対していたにも関わらず、情けをかけてもらった事に感謝している民も大勢いる。
だけどその一方で、「何か裏があるのでは?」という懐疑的な意見が消える事はない。つい先日も『騙されるな、クリフォードは魔物の傀儡だ!』と大声で叫んで暴れた酔っぱらいが捕まったと聞く。
「共存なんて綺麗事だって、多分お互い思ってるよね」
「だろうな。でもどこかで負の連鎖を終わらせなければ。それがきっと今なんだ」
シヴァは少し考えた後、また話し出した。
「夜の時代にも拘らず、勇者が召喚された。今までにない出来事で驚いたが、女神様は新しい世界の始まりを予言したのだろう? きっと、平和な世界を作る機会を与えられたんだと思う」
(両種族の争いに終止符を打つ為に、俺は召喚されたのかな? 勇者らしい活躍もしてないのに、いつの間にか世界の管理者になってたし)
「・・・俺に求められているものって何だろう?」
「私が思うに、夜の時代に生きる人々の不安を和らげ、希望を与える事じゃないか?」
ぽろっと口から溢れた言葉だったのに、シヴァは真摯に答えてくれた。
それはとても嬉しかったけれど。
「仮にそれが正解だったとして、具体的に何をすればいいんだろう?」
「さて? 私には分からない。その答えを見つけるのは、お前自身だ」
え?ここで突き放すの?と思いながらシヴァを見上げると、意外にも優しい眼差しが向けられていた。
「焦って答えを出す必要はない。世界平和なんて1人で出来るものではないからな。今は世の中が変わろうとしている最中だ。周りをよく観察し、色んな事を学んでいくうちに、自ずと答えが出てくるだろう」
「そうだといいな」
(人々に希望を与えるって、魔王様を討つよりも難しい気がする。俺に出来るかな?)
ジッと手の平を見つめていたら、クシャリと頭に手を置かれた。
「考えすぎると、ますます分からなくなるぞ。勇者という立場を忘れて、単純にレンの理想の世界を思い浮かべたらどうだ。後は、その理想に近づければいいだけの話だ」
俺の理想の平和な世界?
モフモフで可愛い三日月班と一緒にスローライフを送りたい。
その為には、まずは三日月班の安全を確保しないと。
「うん。一つ目標が出来た」
「その調子だ。それにお前は1人じゃない。ショーンや私達がついている。何より魔王様が協力者なんだ。こんな心強い事ないだろう?」
その言葉に、理想の未来がバラバラと砕け散った。
(確かに魔王様は平和な世界を望んでるけど、手っ取り早く全てを壊してリセットしようとしてるから!)
なんだかんだ忙しくて、あれから魔王様に会っていない。
まずは自分がどうしたいか、魔王様と話し合わなくちゃ。
目指せ! 三日月班とのモフモフ・ハッピー・スローライフ!




