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勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


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星空市場

 すっかり日が落ちて辺りは暗くなっていたが、星空市場は暖かい光に溢れていた。


「わぁ、なんだかクリスマスマーケットみたい」 

「本当だね。色々と珍しい物が売ってて楽しそう」


 目の前の店では、熊の獣人が大釜で白っぽい何かをぐつぐつと煮詰めている。かき混ぜていた大きなヘラを頭の位置まで掬い上げると、鍋の中身が餅のように伸びた。


「何だろう? チーズかな?」

「多分。それにしてもすごい量ね」

「あの釜、大人2人余裕で入れそう」


 蓮と二人でワクワクしながら話していると、ショーンも目をキラキラさせながら周りを見渡していた。


「都の数倍、明るくて美しいですね。この光景を見たら、魔物は闇の属性で光に弱いという通説が全くの出鱈目だと誰もが思うでしょう」

「まあ多くの魔物が夜行性なのは間違ってねぇけどな」


 ラーソンが笑いながら言うと、ショーンは眉を寄せた。


「その魔物という通称も改めるべきだと思います。今後の為にも名称を変えて、魔獣との混同を避けた方がいい」

「うん、そうだな。だが先に飯を調達しないか? ガロンが匂いにつられて迷子になりそうだ」

 

 その言葉通り、ガロンは一人でズンズンと前を歩いている。


「ガロン」


 シヴァが呼びかけると、ガロンは勢いよく振り返った。


「あっちから美味しい匂いがする!」


 ガロンの嗅覚は間違いないので、皆でついていく。歩いているうちに、確かに食欲を刺激する香りが漂ってきた。

 ついたのは煮込み料理の店。巨大な鍋の中は濃い赤紫色のスープで満たされており、大きな肉の塊がゴロゴロと入っている。


「お、耳長牛の黒エール煮込みか。これはお勧めの一品だぞ」

「俺、これ食べたい!」


 それならと全員分を買って、広場に点在しているテーブルの一つに着く。

 深皿に盛られた肉は拳ほどの大きさだった。木製のスプーンで、この塊をどうにか出来るだろうか。


「いただきます」


 まずはスープを一口飲んでみると、甘酸っぱい味が広がった。


「んん、美味しい!」


 甘味とコクがある好きな味。これは期待できそう。肉にスプーンを当てると、ホロリと簡単に身が崩れた。豪快だと思ったけれど、きっと筋を切ったり、弱火で長時間煮込んだり、しっかりとした準備をしてるんだろう。


「お肉がすごく柔らかい。結構手が込んでるわね」

「味が染み込んでて美味しいですね」

 

 私とショーンがゆっくりと味を堪能している隣で、他の皆はペロリと平らげて、次は何を食べようかと相談を始めた。


「美味かった。次は何食べよう?」

「さっきのチーズみたいなやつ気になる」

「飲み物も買わなきゃな」

「じゃあ、買い足しに行くか。市場が賑わってきたから、ミホとショーンは席を取っておいてくれ」


 シヴァの言葉通り、どんどん客が増えて賑やかになっている。6人で座れるテーブルが確保できたのは、混雑前だったからだろう。

 買い出しメンバーを見送った後、食事を続けながら市場の様子を観察する。


「器はお店に返せばいいのかしら?」

「そうみたいですね。あ、でも自分の器を持ってる人もいるみたいですよ」


 言われた方の店を見ると、山猫の獣人が持参した蓋付きポットをお店の人に渡していた。お店の人は慣れた様子で受け取り、料理をよそっている。マイボトルならぬマイポット。


「容器持参すると、お店の負担が減っていいですね」

「でもあれ陶器よね。衝撃に弱いから落として壊れないか心配だわ」

「自分なら強化魔法で頑丈にしますね」

「成程。それなら溢さないように気をつけるだけでいいわね」


 そんなことを話しながら皆を待っていたのだけど、なかなか帰ってこない。


「シヴァ達、遅いわね」

「お客が増えたから、列に並んでるのかもしれないですね」

「なんだかさっきから、周りの視線が痛いのよね。食器があるから、連れがいるのはわかってると思うけど、さっさと退いてくれないかなぁって思われてるんじゃないかしら」


 そう言うとショーンは苦笑した。


「注目を集めてるのは、自分たちが人間だからじゃないですかね?」

「あ、そうか」


 ここは帰らずの森の奥にある魔物の街。特に魔王城周辺は、普通の人間では辿りつけない。

 武器も持ってないし、何も迷惑をかけてないけれど、住民からみれば、私達は招かれざる客なのだ。


『何でここに人間が?』


 みたいな、奇異の目で見られてるのか。

 私は魔王様から賜ったローブを着てるから、襲ってくる事はないと思うけど、何者なんだろうと不思議に思われてるだろうなぁ。一般の人には顔を知られてないし。


「絡まれたら面倒だなぁ。みんな早く帰ってこないかしら」


 そう言った矢先。


「なんか人間臭ぇな。せっかくの飯が不味くなるぜ」


 という言葉が聞こえた。視線を向けると、犬科の獣人がこちらを睨んでいる。


「ミホさん・・・」

「とりあえず無視で」


 魔王様が復活し、戦争に勝利したからといって、人間への恨みが晴れるわけではない。お互いの種族が平和に生きる為に共存の道を選んだけれど、その事に納得していない住民も当然いる。

 私は立場上、ソルーナ共和国の方に力を入れているけど、他の幹部は住民達の理解を得られるよう尽力しているところだ。


「まあ、彼らの気持ちもわかります。まだまだ人間側の偏見もなくなりませんし」

「うん。平和のために和解したとはいえ、民間に浸透するのは時間がかかるわよね」


 両種族が仲良く平和に暮らすのが理想だけど、個人的な感情はどうしようもない。

 人間による被害を受けた人は、まだ許すことなどできないだろう。

 私自身、リアムと積極的に交流を持とうとは思わないし。

 そんなことを思ってると、ポンと肩に手を置かれた。振り向くと、シチューを片手にニコニコ顔のオリヴィアが立っていた。


「こんばんは、良い夜ね」

「オリヴィア! どうしてここに?」

「ついさっきシヴァから連絡が来たの。自分は子供達についてるから、2人の事を頼むって」


 オリヴィアは私の横に座ると、文字の書かれている葉っぱをひらひらと見せた。


「そうだったの。わざわざ来てくれてありがとう」

「ええ。せっかくだから私も屋台料理を楽しむことにしたわ」


 私たちの会話がひと段落すると、ショーンが立って恭しくお辞儀をした。


「オリヴィアさん、お久しぶりです」

「ええ。ショーンも元気そうね。前より随分と肌艶がいいじゃない」

「以前と比べて食生活と生活習慣が改善されましたからね。ミホさんとレンのおかげです」


 にこやかに会話する私達を見て、周りがざわついた。

 森全体に影響力を持つオリヴィアは一般の民から絶大な信頼を得ている。兵士の中にも信者と言ってもいいようなオリヴィアファンがいるくらいだ。驚くのは無理もない。

 

「それにしても外食なんて珍しいわね。今日はどうしたの?」

「スタッフを労うパーティーをしたのよ。張り切りすぎて疲れちゃった」

「今日のご馳走はすごかったですよ。初めて食べる物も多くて」

「ええ〜っ! いいなぁ〜、楽しそう。どんなご馳走だったの?」


 ショーンから料理の内容を聞いたオリヴィアは、心底羨ましそうな顔をした。


「ミホ〜、私、毎日頑張ってるわよ」

「うふふ、そうね、オリヴィアはすごく頑張ってて偉いわね」

「私の事も労って」


 つまりパーティーを開けと?

 

「それなら他の幹部も労わなくちゃ。魔王様に言って慰労会開いてもらう?」

「それいいわね」


 ご馳走が食べたいオリヴィアは、すぐに賛成した。


「でも1人で作るのは大変だから、皆で料理を持ち寄りましょう。今日も家族みんなに手伝って貰ったの」

「え? シヴァも料理をしたってこと? 本当に!?」

「ええ。自分も手伝いました」


 ショーンの言葉にオリヴィアは真剣に悩み始めた。


「私は食べる専門だし、ナーダは料理できるのかしら? ベルガーは絶対できないわよね」

「オリヴィア、シチューが冷めちゃうわよ」

「そうね、食べながら考えるわ」


 オリヴィアはシチューを一口食べて、満足げに微笑んだ。

 

「うん、美味しい。偶にはこういうのも新鮮でいいわね」 

「オリヴィアもあまり外食しないの?」

「そうね。毎日貢物が供えられるから」


 オリヴィアの本体である大樹は、森の象徴でもある。周辺の住民は日々の感謝を込めて、パンや野菜・果物などを供えているらしい。羨ましい話だ。


「おかげで食うに困ってないけど、凝った料理は滅多に食べないの。だから珍しくて美味しいミホの料理が食べたいなぁ」


 そう言って上目使いで首を傾げるオリヴィア。

 私よりずっと年上なのに、なんだろうこの可愛さは。


「じゃあ、教えてあげるから一緒に作らない?」

「私に出来るかしら?」

「大丈夫よ。料理が大の苦手のシヴァも作れるようになったから」

「そうなの? なら私もやってみるわ」



 後日、オリヴィア以外にもナーダとベルガー、そしてグレゴリーにも料理を教える羽目になり、余計に疲れる事になるとは思わなかった。


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― 新着の感想 ―
ぬあぁぁぁぁぁ コミック広告で惹かれて既刊制覇からのWeb版も制覇してしまったぁぁ 読みやすくて面白いのがいけない(なくない) 今でいうシンママ歴ん十年のババですが ミホの気持ちもわからんでもないし…
まあ、自分で作る気があるのはよいことだと思います。
料理を習いに来るベルガー想像したらw
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