外食
残念ながら皿を一瞬で洗う便利な魔法はなく(分かってたけど)、私と蓮は工房でパーティーで使用した食器の半分を洗うことになった。もう半分はシヴァとショーンが食堂で請け負ってくれている。ガロンとラーソンは会場の片付け担当だ。
「ハァ〜、やっと終わった」
皿を拭き終えた蓮が天井を仰いだ。いつもより量が多かったので、流石に疲れただろう。
「お疲れ様。多分シヴァ達も終わる頃だろうから、食堂に行ってお茶淹れましょうか」
「うん」
蓮と連れ立って食堂に行くと、ノルマをこなしたガロンとラーソンが食堂にやってきた。
「お疲れ様。お茶を淹れるから、ちょっと待っててね」
(みんな疲れてるだろうから、チャイにしましょう)
小鍋にシナモンと生姜を入れて色づくまで煮出し、沸騰したら紅茶の葉を加えて2分ほど煮出す。その後ミルクと砂糖を加えて沸騰直前まで温め、茶漉しで漉したら出来上がり。
香り高く濃厚な味わいが楽しめるだけでなく、体を温める、消化を助ける、リラックス効果がある等、効能もバッチリなので、みんなの疲れが癒やされるはず。
でも妊娠中の私はホットミルク。ハーブやスパイス、カフェインの摂りすぎは良くないからね。
「お待たせ。みんな、今日はありがとう。おかげでとても助かったわ」
「ああ。大変だったが、なかなか楽しかったな」
シヴァの言葉に皆が笑顔で頷いてくれた。嬉しい。
私が席につくと、皆がチャイを飲みながら今日の感想を話し始めた。
それに耳を傾けながら熱々のホットミルクに蜂蜜を入れて一口。じんわりと胃が温かくなるのを感じる。思わず、ほぉっと息が漏れた。
(あ〜、疲れた〜)
パーティーが成功したのは喜ばしいけれど、流石に疲れた。
今現在、私の脳内では蛍の光が流れている。
(本日の家事は終了致しました・・・なんて言えないわよね。あ〜、この後、夕食の準備して、また食器洗わなきゃいけないのかぁ)
頑張ってくれた皆を労ってあげたい気持ちはある。だけど料理を作る気力が湧いてこない。今夜の夕飯は誰かに作って欲しい。いやでも皆も疲れてるし・・・。
「・・・出前があればいいのになぁ」
「でまえって何?」
思わず口からこぼれた心の声を、ガロンは聞き逃さなかった。
「出前っていうのは、お店の料理を家に配達してくれるサービスの事だよ」
私の代わりに蓮が答えてくれた。
「家にいながらお店の料理が食べれるんですか。それは便利ですね。出前を新たな事業として立ち上げれば、雇用促進になります」
「でも、どうやって注文するんだ?」
「事前にお店に行って注文して、後から届けてもらうのでは?」
「支払いは?」
「料理と引き換えに後払いですね」
「それだと配達人が持ち逃げするかもしれないだろう?」
ショーンとラーソンが出前サービスについて色々と議論を交わし始める中、シヴァは心配そうに私を見た。
「体調が悪いのか?」
「ううん、ちょっと疲れただけ。今日はいつもより頑張ったから、誰かにご馳走して欲しいなぁって」
心配させないように冗談めかして言うと、シヴァは少し考えてから
「じゃあ、今日は外食にするか」
と言った。
「外食?」
めちゃくちゃ久々に聞いたわ、その言葉。そんな選択肢があったなんて。
「ああ。と言っても私もそんなに詳しくない。ラーソン、どこか良い店知ってるか?」
「そうだなぁ・・・」
話を振られたラーソンは腕を組んで考え込んだ。
「俺も店は詳しくないんだ。買い物のついでに、星空市場で買い食いする方が多かったから」
「星空市場って、お城の近くの街で毎日開かれてる市だよね? 色んな食べ物屋さんがあるんでしょう!? 俺、行ってみたい!」
ガロンが目をキラキラさせて私達を見た。
「それじゃあ、今夜は星空市場に行こう」
「それ、俺と先生も行っていいの?」
蓮の言葉にシヴァは不思議そうに首を傾げた。
「? 当たり前だろう。家族なんだから」
この言葉はショーンを喜ばせた。彼はニヤける顔を引き締めようと両手で頬を押さえ、口をモニョモニョとさせている。それを横目で見つつ、蓮は念を押すようにもう一度聞いた。
「人間の俺達が行って、問題にならない?」
「私達と一緒に行動してれば文句言う奴はいないだろう」
それもそうか、と蓮が納得したので、しばらく休憩してから星空市場へ出かけることが決定した。
森に出かけるので、魔王様から頂いたローブを羽織る。これさえ着てれば万が一皆とはぐれても大丈夫だ。
「それじゃあ、行こうか」
そう言ってシヴァが食堂の扉を開けると、そこはお城で私達に割り当てられている部屋だった。
「魔王様にご挨拶してくる。少しここで待っていてくれ」
シヴァはそう言って、一人で部屋を出ていった。
お城をショートカットに使うってどうなの?って私の心の声が聞こえたのかしら?
「ここって城の中か?」
ラーソンが部屋を見渡して言った。
「ええ。私達に割り当てられた部屋よ」
「幹部の部屋にしては随分とシンプルだな」
ラーソンの言う通り、この部屋は家具が少ない。L字型のソファとサイドテーブル、そして観葉植物の鉢が一つだけ。
「実はあまり使ってないのよ。会議の時間がズレた時とかに利用するだけだから。モリスは泊まる事も多いみたいだけど」
「ああ、兄貴の部屋は他人には見せられないと思うぜ」
そんなことを話している間、蓮とガロンは仲良く窓から外を眺めてはしゃいでいた。
「お母さん見て。すごく綺麗だよ」
蓮に呼ばれて窓辺に行くと、素敵な光景が目に飛び込んできた。
日が落ちて暗くなった森の中、一筋の光が伸びて道となり、その先にキラキラした暖かい光に包まれた広場があった。
「わあ、本当に素敵。お城の近くにあんな広場があるなんて知らなかった。結構大きいのね」
ラーソンとショーンも窓辺にやって来た。
「あれが星空市場だよ。まだ半分くらいだな。俺らが行く頃には、全ての店がオープンしてるだろう」
「星空市場って名前が素敵ですね。夜通しやってるんですか?」
「ああ、日没から夜明け前までやってる。色んな種族が店を出してるから、食い物以外にも色々と面白い物が集まって面白いぞ」
「ヘぇ、どんな物が売ってるんだろう?」
「レン、後で一緒に見て回らないか?」
「自分も交ぜてください」
初めて行く場所に蓮とガロン、それにショーンはワクワクを隠せない様子だ。
皆でラーソンのおすすめ料理を聞いていると、シヴァが戻ってきた。
「待たせたな」
「父さん、もう市場が開いてるよ。早く行こう」
目をキラキラさせているガロンを見て、シヴァは優しく微笑んだ。
「ああ。今日はみんな頑張ったから、好きな物を買ってやろう。お金の心配はしなくていいからな」
その言葉に蓮とガロンがハイタッチした。




