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連絡用ペンダント

「これが以前話していた連絡用魔道具だ」


 そう言ってシヴァが机に並べたのは、ツヤツヤした淡いピンク色の丸いペンダント。

 シンプルながらも美しいペンダントに、女性スタッフ全員は思わず「わぁ!」と感嘆の声を漏らした。

 中でも一番食いついたのはベラだ。元々魔道具に関心の高かったベラは、じっとペンダントを観察しながらシヴァに質問した。


「綺麗ですね。この光沢・・・素材は貝殻ですか?」

「ああ、魔力を貯める性質の巻貝を加工した物だ。1つの貝から加工できるのは2つだけで、それが対となっている。どれだけ離れていようと会話することができるが、事前に契約する必要がある。私は既に契約済みだ」


 シヴァはそう言いながら、ギザギザした葉っぱの形をした木製のネックレススタンドを見せた。それには上から均等に、6つの真珠色のペンダントが掛けられていた。


「全てのペンダントに私の魔力を通してある。あとは各々が契約を結ぶだけなんだが」

「俺、そっちの白い方がいいな」


 シヴァの説明が終わらぬうちに、ダンが話に割り込んできた。


「こっちは私が契約済みなので無理だ」

「俺にこんな可愛いペンダントをつけろって言うのか? いい笑い者だぜ」

「人から見えないようにシャツの中に入れておけば良いだろう。ただのアクセサリーじゃないんだ。我儘言うな」

「・・・やっぱりダメか」


 ダンはガックリと肩を落とすと、女性スタッフ達からクスクスと笑い声が上がった。

 

「説明を続けるぞ。契約するためには魔力を流す必要がある。この中で魔力のある者はいるか?」


 全員が顔を横に振った。


「では魔力の代わりに血で代用してもらう」

「血!?」


 スタッフがギョッとして一歩後ずさったが、シヴァは気にする事もなく、針と軟膏を机に並べて淡々と話を続けた。


「必要な血は一滴だけだ。痛い思いをさせて申し訳ないが、血止めの薬も用意してある」


 その言葉を聞いて、スタッフ達はホッと肩の力を抜いた。


「針で指先を刺して血が出たら、ペンダントを持って自分の名前を言ってくれ。こちらの対のペンダントに名前が浮かび上がったら、無事に契約終了だ」

「それだけか? 契約なんて言うから身構えたが、思ったより簡単なんだな」


 ダンの軽い調子に、シヴァはため息を吐いた。


「冗談じゃない。この小さな魔道具にどれだけの術式がかけられたと思ってる? 本来なら自分の魔力を流すだけで使える代物なんだぞ。魔力のない人間でも使えるよう改良してくれた、魔道具開発部に感謝してくれ」


 シヴァはローソクに火をつけると、針を軽く炙った。


「まずはダン、お前からだ。手を出せ。それとも自分でやるか?」

「自分でやる」


 ダンは躊躇うことなく針で左手の人差し指を刺した。そして血の滲んだ指でペンダントを持ち「ダン」と名前を告げた瞬間、ペンダントが淡く光った。


「成功だ。ダンはそのペンダントの使用者として認められた」


 シヴァの言葉に皆の視線がネックレススタンドに集まる。

 一番上に飾られた真珠色のペンダントが淡く光り、赤色でダンの名前が浮かび上がっている。やがて光が消えると同時に、名前もスッと消えていった。

 シヴァはダンに血止めの軟膏を渡しながら、女性スタッフを見た。


「魔道具の使用契約は以上だ。何も問題なければ順番に契約してもらおうと思うが、何か質問は?」

「はい。仮に盗られたりした時、どんな呪いがかかりますか?」


 ベラの質問に、シヴァは「心配ない」と頷いた。


「絶対に呪われたりしないから、誰か試しにダンのペンダントを触ってみてくれ」

「それじゃあ私が・・・」


 ダンの隣に立っていたマチルダが恐る恐る手を伸ばす。その手がペンダントに触れた瞬間、バチっと大きな音がして、マチルダは「キャッ!?」っと悲鳴をあげながら手を引っ込めた。


「大丈夫か!?」


 ダンが慌ててマチルダの手を握って確かめる。


「・・・怪我はないみたいだな」

「ええ。触れた瞬間は痛かったけど、今は何ともないわ」


 マチルダは確認するように手を握ったり開いたりした後、心配そうにダンを見た。


「あなたは何ともなかった?」

「ああ、俺は全然。大した事なくて良かった」


 ダンはそう言うとシヴァを睨んだ。


「わざわざ痛い思いをさせる必要は、なかったんじゃないか?」

「そうだな。マチルダ、すまなかった」


 シヴァが素直に謝ると、マチルダは慌てた様子で両手を振った。


「いえ、大丈夫です。痛みも一瞬でしたし怪我もしてません。何よりクルトに触っちゃダメな理由を言い聞かせられますから」


 マチルダの言葉にロザリンとメリッサが大きく頷く。


「そうね。どんなにダメだと言っても、娘は絶対にペンダントをつけて近所の友達に自慢すると思うの。でも触れなければ諦めるでしょう」

「ええ。うちの子も二人で取り合って壊しかねないもの。怪我しない程度の痛みだと分かって良かったわ」


 二人の言葉を聞いて、シヴァは頷いた。


「本来なら、魔道具が壊れたり盗まれたりすると、管理不十分という理由で契約者に呪いがかかるんだが、そうならないようミホが色々提案して、改良してもらったんだ。これなら盗まれる事もないし、ペンダント自体を強化しているから滅多なことでは壊れない。安心して使ってくれ」


 その言葉に全員がホッとしたように頷き、順番に契約をしていった。


「全員、無事に契約できたな。それじゃあ実際に使ってみよう。みんな、ペンダントをつけてくれ」


 それぞれ手に持ったペンダントを首にかけると、女性達はお互いを見てニコニコと笑顔になった。


「素敵、似合ってるわよ」

「あなたもね」

「何だかウキウキするわね」


 そんな中、ダンは渋々と言った様子でペンダントを首にかけると、シヴァに声をかけた。


「で? どうやって使うんだ?」

「ペンダントトップを摘んで、普通に会話するように私の名を呼べばいい。私は食堂に移動するから、しばらくしたら声をかけてくれ」


 シヴァがネックレススタンドを持って事務所を出ると、ダンは言われた通りにペンダントトップを摘んだ。


「シヴァ、聞こえるか?」

『ああ』

「おおっ! 姿が見えないのに声だけ聞こえるなんて、なんか変な感じだ」

『そうだな。だが慣れてくれ。恐らくダンが一番、私と連絡を取ることになるからな』

「まあ、そうなるだろうな。確かに便利なんだが・・・色が可愛すぎるんだよなぁ」


 ダンはゲンナリとした表情でペンダントトップを眺めた。


「ねえ、本当にシヴァさんと会話しているの?」


 メリッサにそう問われ、ダンは目を丸くした。


「みんなにはシヴァの声が聞こてないのか?」

「ええ。ダンが一人で喋ってるようにしか見えないわ」

『基本的に本人しか相手の声は聞こえない。聞かれてまずい事もあるかもしれないしな』


 メリッサに対して聞いたのだが、こちらの状況が見えてないシヴァからも答えがきた。


「順番に試してみろ。なかなか面白いぞ」


 ダンにそう言われて、スタッフ達は顔を見合わせた。


「じゃあ私から試してみるわね」


 メリッサはペンダントを握ると、スーッと息を吸ってハキハキとした声を出した。


「シヴァさん、私の声聞こえますか?」

『メリッサ、君の声は魔道具に頼らずとも、よく聞こえるよ』


 シヴァの回答に思わず全員が笑い、それからハッとした表情になった。


「すごい! 本当にシヴァさんの声が聞こえた!」

「不思議。でも便利ね」


 女性スタッフがキャアキャアと楽しげにはしゃぐ横で、ダンは驚きながらシヴァに話しかけた。


「おい、全員にお前の声が聞こえたぞ!」

『これから説明する。皆、そのまま聞いてくれ。普段使用する時は、人差し指と親指で摘むように。そうすれば他人に私の声は聞こえない。だが貝殻全てを覆うように握ると、近くにいる他人にも聞こえるようになる』

「へ〜」


 メリッサがペンダントを持ち直した。


「こうかしら?」

「メリッサ、持ち直したのか? それなら周りに私の声は聞こえないはずだ」

「私にはさっきと同じように聞こえるけど」


 メリッサはすぐ隣に立っているベラを見た。


「ねえ、今シヴァさんの声聞こえた?」

「いいえ。メリッサの声しか聞こえなかったわ。次は私が試してみるわね」


 ベラはペンダントを握りしめて話しかけた。


「シヴァさん、質問いいですか? 因みに全員に聞こえるようにしています」

『ベラか。なんだ?』

「これって話す間、ずっと握ってなきゃならないんですか?」

『ああ。その方が安定して使える』

「連絡を終わらせる時は、どうすればいいんですか?」

「貝殻を離せばいい」

「わかりました。ロザリンに代わります」


 ベラの会話が終わると、ロザリン、マチルダ、カミラの順番で基本の動作確認を行なった。


「シヴァさん、素敵なペンダントをありがとうございます。大事にしますね」

『ロザリン、プレゼントじゃないぞ。貸してるだけだからな。誤解しないように』 

「シヴァさん、マチルダです。パーティーなんて初めてでしたが、すごく楽しかったです。クルトも喜んでました」

『クルトの預け先が見つかったのは良い事だが、あの子の笑い声が聞こえなくなると寂しくなるな』

「シヴァさん、カミラです。お料理もお酒もすごく美味しかったです。ご馳走様でした」

『楽しんでくれたようで何よりだ』


 全員との会話が終わると、シヴァが事務所へと戻ってきた。


「皆、問題なく使えたようだな。失くさないよう気をつけてくれ」

「はい。今からずっとつけます」

「私も」

「軽いから全然気にならないしね」

「皆とお揃いなのが嬉しいわ」

「シンプルだけど可愛いわよね」


 楽しげに話す女性スタッフの陰で、ダンはペンダントが見えないようにシャツの中に押し込んだ。


「明日は1日休んで、明後日から店のオープン準備に備えてくれ。内装工事は終わっているし、テーブルや椅子は明後日の午前中に届くように手配している。ダンの指示の元、清掃や家具の配置を行なってくれ」

「「「「「はい、わかりました」」」」」

「シヴァ、お前も店に来るんだろう?」

「ああ。大型冷蔵庫や調理器具を持って行く。昼前には着くだろう。プリン型とスプーンは午後に届くはずだ。その他の細かい打ち合わせは、昼食をとりながら行う」


 いよいよ店のオープンが近づき、スタッフ達は期待と不安に胸を膨らませた。


「さて、時間を取らせたな。子供達を迎えに行こう」

「「「「「はい」」」」」


 事務所を出たスタッフ達は、ニコニコしながら子供達を迎えに行った。


「うちの子達、大人しくしてたかしら?」

「ミホさんもいるし、大丈夫じゃない?」

「子ども同士仲良くなったみたいで良かったわ」

「クルトが他の子に迷惑をかけてないといいんだけど」


 そんな事を言いながら、シヴァの後をついて行ったスタッフ達は、信じられない光景を見て固まった。

 リンゴの木下で、子供達が交代でガロンの両腕にぶら下がってキャッキャとはしゃいでいる。

 順番待ちをしていたレベッカが、こちらに気づいて手を振った。


「ママ〜! 次は私達の番だから見てて」


 女の子二人が嬉しげにガロンの腕にぶら下がり、キャハハと楽しそうな笑い声が畑に響き渡る。

 驚きすぎて声を出せないスタッフ達に、ミホが微笑んだ。


「お疲れ様。みんな、ペンダントよく似合ってるわ」

「ありがとう、ミホ。ところで、これは一体・・・」


 ロザリンが戸惑いながら尋ねると、ミホは収穫されたリンゴのカゴを指差した。


「皆を待っている間、子供達にリンゴの収穫を手伝ってもらったの。高い所の実をとる時ガロンが手伝ったお陰で、すっかり仲良くなっちゃった。ガロンが穏やかで優しい子だってわかってくれたみたい。皆いい子ね」


 やがて子供達が母親の元へと走ってきた。


「ママ、これ私が採ったのよ。凄いでしょう?」

「俺は一番大きなリンゴをとったぜ」

「僕は真っ赤なのを選んで採った」

「リンゴ採るの初めてだったけど、すっごく楽しかった」

「あのね、僕がみんなにお手本見せてあげたんだよ」


 リンゴを掲げて褒めて褒めてと群がる子供達。その後から、ゆっくりとガロンがこちらへと歩いてきた。


「ガロン、お疲れ様。全員の相手は大変だったでしょう?」

「ううん、楽しかったよ」

「ガロンって小さい子の相手が上手いよな」

「そうかな?」


 ミホの労いとレンの褒め言葉に、ガロンがくすぐったそうに目を細める。

 少し離れた場所でリンゴを収穫していたジャスミンも、こちらに合流してカミラに並んだ。


「あら? 可愛いペンダントつけてる。どうしたの、それ?」

「緊急連絡用の魔道具なのよ」

「へ〜、綺麗ね。見せてもらっていい?」

「あ、駄目!」


 カミラが止める間もなく、ペンダントに伸ばされたジャスミンの手がバチっと大きな音と共に弾かれた。


「っ! 痛ぁ〜い!! 何これ!?」

「盗難防止用の呪いがかかってて、他人が触ると痛い目見るのよ。大丈夫」


 ジャスミンは右手をマジマジと見た。


「うん。怪我はしてない。でも物凄く痛かったわ」


 二人のやり取りを子供達も見ていた。


「ママのペンダントも呪いがかけてあるの?」


 レベッカに不安そうに尋ねられたロザリンは、大きく頷いた。


「そうよ。これはただのアクセサリーじゃないし、借り物なんだから絶対に触らないで。いいわね?」

「絶対触っちゃダメよ。私、指がちぎれたかと思ったもの」


 ジャスミンから真剣に言われたレベッカは、すごく残念そうに「わかった」と呟いた。さっきまで楽しかった雰囲気が、一転して微妙な空気になる。


「あの、これ皆さんへのお土産です」


 場を和まそうと思ったのか、レンがリンゴの盛られた果物カゴを並べた。


「まあ! ご馳走になった上にお土産まで貰えるなんて! 今日はなんて良い日かしら」


 メリッサの明るい声に、皆も思わず笑顔になる。


「果物カゴはそのままお家で使ってね」

「ありがとう。遠慮なく頂くわ」


 スタッフ全員とジャスミンにお土産を渡し終え、パーティーはお開きとなった。


「今日は本当にありがとうございました」

「とっても楽しかったです」

「お料理どれも美味しかったです。ご馳走様でした」


 スタッフと子供達は口々にお礼を述べて馬車に乗り込んだが、クルトは最後まで残っていた。


「ガロンお兄ちゃん!」


 駆け寄ってきたクルトを、ガロンがしゃがんで抱き止める。


「また遊びに来ていい?」

「ああ、いつでもおいで」


 ガロンはそのままクルトを抱き上げると、そっと馬車に乗せた。


「それじゃあ出発するぞ」


 ダンが馬に鞭を打ち、馬車が門を出て行く。見送りに出ると、子供達が馬車の後ろから顔を出して手を振った。


「「「「「ガロンお兄ちゃん、バイバイ!」」」」」

「皆、元気でな〜」


 手を振るガロンの後ろ姿を、シヴァとショーンが感慨深そうに見ていた。


「ガロン君は本当に凄いですね」

「ああ、自慢の息子だよ」


 ミホはほ〜っと息を吐いた。


「みんな、パーティーを楽しんでくれたみたいで良かった。蓮はどうだった?」

「うん。準備も含めて楽しかったよ」

「そう言ってもらって良かったわ。後片付けも楽しんでくれると嬉しいな」

「・・・一瞬で皿洗いできる魔法がないか、先生に聞いてくるね」

感想、誤字報告、ありがとうございます。

もっと早く更新するはずだったんですが、うっかりデータを消してしまい、遅くなってしまいました。

自分のミスなんですけどね。

毎日少しずつ書いてたのに、なんて事してくれたんだ、このバカ指が!

と、自分の右手を思わず叩いちゃいましたよ。結果、痛みだけが残りました。

短気はいけませんね。

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― 新着の感想 ―
ペンダントのセキュリティに関してですが、 "本来なら、魔道具が壊れたり盗まれたりすると、管理不十分という理由で契約者に呪いがかかるんだが、そうならないようミホが色々提案して、改良してもらったんだ。"…
ペンダント。 母親の危険時にはお子さんも扱えるといいですねー。
前々から言ってた連絡用魔道具の登場ですね。なろう系におけるこの手の通信道具って、現実でいうインカムとかスマホとか(デザインを異世界ナイズしてるにしても)世界観とミスマッチした機械的なものが妙に使われる…
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