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潜入

『ドルト』は地下迷宮(ダンジョン)と街の中間地点にあるので、地下迷宮(ダンジョン)を攻略する冒険者達に重宝されている。

 建物は頑丈な石の壁でぐるりと四方を囲まれており、入り口は一つしかない。おまけに壁には窓がないので、中の様子を伺う事も出来ない。中に入るには巨大な扉を内側から開けてもらわなければならなかった。


 私達が『ドルト』に着いたのは、日が暮れて間もない頃だった。

 扉が閉まっていたため、私は荷馬車から降りて扉を叩いた。

 しばらくすると、壁の上から男が顔をのぞかせた。どうやら壁の上全体が見張り台のようになっているらしい。


「誰だ?こんな時間に何の用だ?」


「キーナから来た旅の者です。今日中にアビラス王国の首都グラードに着く予定だったんですが、途中で荷馬車が壊れてしまって、修理しているうちにこんな時間になってしまいました。

 土地勘のない場所で夜に移動するのは不安なので、一晩こちらに泊まらせてもらえないでしょうか?」


「待ってろ、すぐそちらに行く」


 男は言葉通りすぐに下に降りてきて、巨大な扉の中に作られた通用口から出てきた。


「うちは冒険者用の宿なんだが。あんた一人か?」


「いえ、連れが二人いるんですが、昼間の修理で疲れたらしく、今は荷台で寝ています」


 私が荷馬車を指差すと、男はチラッとそちらを見た。


「身分証は持ってるかい?」


「キーナで発行してもらった通行証でいいですか?」


「ああ、一応確認させてもらおう」


 私はポシェットから通行証を取り出し、男に手渡した。


「ふーん、商人には見えねえけどなあ」


 男はじろじろと私を見た。私は苦笑して答えた。


「正確に言うと私は菓子職人で、商売しているのは私の雇い主です。グラードに新しく店を出す事が決まって、腕を見込まれて出稼ぎに出てきたんです」


「菓子?そんな贅沢品、祭りの時くらいしか食べた事ないぜ」


「ええ?こっちの人ってそうなんですか?私の国では普段の息抜きに食べたり、贈り物にしたりしてるんですが」


 私は御者台の横に置いた袋からクッキーの入った瓶を取り出し、男に差し出した。


「旅の携帯食用に焼いた物なんですが、良かったらおひとつどうぞ」


 男は木の実をトッピングしたクッキーを選び、「ふーん」と珍しそうに眺めた後に一口食べた。 


「・・・美味(うま)いな」


「ありがとうございます。お口にあって良かった!」


 私はニッコリと笑った。


「変な奴だな。礼を言うのはこっちだろうに」


「いえ、作った物を美味しいって残さず食べてもらえたら、職人冥利に尽きます」


 男は笑って通行証を返してくれた。


「店ができたら買いにいくよ」


「ぜひ!その時はサービスでもう一品つけますね」


「はははっ。あんた十分商売上手だよ。待ってな、今から扉を開ける」


「ありがとうございます。助かりました!」


 巨大な扉が開き、私は荷馬車を中に進めた。


(まずは第一関門突破!)


 私は心の中でガッツポーズを決めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 待てど暮らせどお菓子屋さんが開店しない門番さん、不憫…
[一言] 門番との自然な会話が良い。 陰キャ引き籠り系の人には書けない文章ですね。
[一言] この門番は善人そうだね
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