招かれざる者1
人に名前を尋ねる時は、自分から名乗るのが礼儀ではなかろうか。
私が何者かと尋ねてきたその顔は、どう見ても友好的ではない。
けれど、ここで癇癪をおこしてはだめだ。まずは状況を把握しなければ。
私はムカムカしながらも、冷静に答える事にした。
「私は一宮美穂と言います。この子の母です」
蓮はまだ気分が悪いのか、目を瞑ったまま動かない。
「ああ、勇者様のお母様でしたか。失礼致しました。随分とお若く見えたものですから」
男はあからさまにホッとした顔になった。
金髪のストレートヘアのおかっぱ頭。淡い水色の瞳。
整った顔をしているのだけれど、どこか冷たい印象を受ける。
「先程からおっしゃっている勇者というのは、この子の事でしょうか?」
「ええ、そうです。その方は、私達の世界の危機を救う希有な力を持った勇者様です」
(なんか、中2病みたいな事言い出した)
「・・・世界の危機というと、魔王が復活したとか?」
「なんと!その通りです。さすがは勇者様のお母様ですね。既にその事にお気づきとは!」
(なんだろう・・・この物腰が柔らかいけど、見下されているような感じは。慇懃無礼って、こういう態度のことかしら)
「詳しいお話を聞く前に、とりあえず息子を介抱したいのですが」
このまま冷たい石の床に寝かせておくのは可哀想だ。体が冷えてしまう。
「勿論です。すぐに部屋を用意させましょう」
おかっぱ頭が周りの人たちに指示をする中、私は少しでも楽になるようにと蓮の背中からリュックを外した。
「失礼します」
そういって蓮を丁寧に抱き上げたのは、がっしりとした体つきの30代くらいの男だ。
短く整えられた焦げ茶色の髪に印象的なグリーンの瞳。
おかっぱ頭に比べれば、まだ少しは誠実そうな印象を受ける。
「聖騎士のアルヴィンといいます。どうぞこちらへ」
「・・・ありがとうございます」
私は蓮の荷物を両手で抱えて立ち上がった。
自分の荷物も背負っているので、重心がとりづらくフラフラする。
しかし、誰一人手伝おうとする者はいなかった。
広間を出るまで、そんなに時間はかからなかったと思うが、周りの視線が痛かった。
ちらりと振り返ると、ぐったりとした男が二人、別の入り口から運ばれていくのが見えた。恐らく、私達を召喚した際、亡くなった人たちだろう。
(全く身に覚えがないけど、私が悪いのかしら・・・?)
何となく居心地の悪さを感じながら、二人分の荷物を抱え、ヨタヨタとアルヴィンの後ろをついていった。
主人公の名前、やっとでました。