作戦会議
「無茶を言うな。お前一人で何が出来る?」
シヴァが反対した。
「もちろん私一人じゃ何も出来ないわよ。宿屋に潜入するのは私一人でも構わないけど、色々な準備がいるわ。これから作戦会議を始めるわよ」
私は魔王様の側から離れ、シヴァの元へと駆け寄った。
「シヴァ、まずはあなたがあの男から引き出した情報がいるわ。
攫われた子供達の人数と監禁場所は最低限必要ね。出来れば宿屋の見取り図を書いてほしい。
他にも鍵を誰が持ってるかとか、見張りがいるかどうかとか、救出に役立ちそうな情報を出来うる限り整理して、皆で共有できるようにして」
私はモリスを呼んだ。
「モリス、私のような黒髪、黒目の容姿の人間が多い国をご存知ですか?」
「ああ、ここからずっと離れた南の大陸にあるキーナと言う国は、ミホのような容姿の人間が多かったと思う」
「じゃあ私はキーナから出稼ぎに来たという設定で宿に潜入するわ。
キーナ人の服とか調達できますか?あと簡単な挨拶の言葉とか、習慣とか、特産物とか、わかる範囲でいいから色々教えて下さい」
モリスは目を白黒させた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。何だってそんな事が必要なんだ?」
「その宿屋は表向き冒険者用なんでしょう?私一人で冒険者のふりをするのは無理があるし、こちらの事情を良く知らないからすぐに怪しまれるわ。
だけど、遠い国から出稼ぎにやってきたばかりの人間なら、土地勘がなくても不思議じゃない。
宿屋の人間も冒険者達も、ちょっと珍しいなくらいに思うはずよ」
「成る程」
「だからといって、一人で乗り込んでどう戦うつもりだ?また調味料を使うつもりか?」
ベルガーが口を挟んだ。
「最大の目的は子供達を逃がす事で、戦って勝つ事じゃないわ。私一人じゃ勝てる訳もないし。
・・・でも、そうね。調味料、調味料か・・・うん、閃いた!ありがとう、ベルガーさん!」
私はモリスに向き直った。
「モリス、お宅のエールと果実酒を少し提供してもらえる?できれば樽ごと」
「それは構わんが・・・一体なんに使うんだね」
「もちろん宿にいる人達に飲んでもらうのよ。酔い潰れて眠っている間に子供達を逃がすわ」
「それなら私の毒を提供するわ。心配しないで、強力な睡眠薬みたいなものよ。死んだりしないわ」
緑色の髪の美女が進み出て、話に加わった。
「味が変わったりします?」
「花の香りは少しするけど、味はないわ」
「最高です。その案、頂きました。それなら料理に足してもバレる事はありません」
私は美女の両手をとって感謝の気持ちを伝えた。
「酒樽を運ぶんなら、乗り物が必要だろう。荷馬車ならうちで用意できるぞ」
「荷馬車!いいですね。子供達を逃がすのにも使えます!」
「それなら私は手先の器用な者にキーナ人の服を用意させよう」
「ありがとうございます」
「人間の旅人なら通行証がいるんじゃないか?」
「宿屋でも見せなきゃいけないもんなんですか?」
「さあ?必ずと言う訳ではないだろうが、身元の確認があったほうが信憑性も増すだろう」
「そうですね。どうしたらいいかしら・・・」
「地下迷宮の中なら、返り討ちにされた冒険者の荷物が転がってるぞ。その中に通行証もあるはずだ。本物があれば偽造できるんじゃないか?」
「部下に言って早速探させよう。他に必要な物はないか?」
「逃げるときの手はずも整えておいた方がいいんじゃないか」
いつしか私は幹部達に囲まれて意見を交換していた。
この場にはシヴァとガロンの他はモリスしか私の味方はいないと思っていた。
けれど、子供達を助けたい思いは他の幹部達にも伝わったようだ。
私達は円陣を組み、一晩中かけて作戦会議を行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いかがでしょう?」
私は皆の意見をまとめ、魔王様に報告した。
全員の知恵を絞った結果だが、作戦を決行するには、魔王様の最終判断を仰ぐ必要があった。
「いいだろう。お前が宿に潜入するのを許可する。しかし、一つ条件がある」
「はい。何でしょうか」
「万一の事を考えると、お前一人で行くのは許可できない。
作戦が失敗すれば子供達の命を危険にさらす事になる」
「はい」
確かに、付け焼き刃の演技では早々に見破られる可能性もある。
もしも失敗した時、私一人で逃げ切れるとも思えない。
誰か同行者が必要だ。でも、誰を?
魔王様が命令を下した。
「準備と潜入の日取りが決まったら知らせよ。私も同行する」