食欲2
私の奇行は、すぐに皆の知るところとなった。
そりゃね、皆には普通の朝食(パンと野菜スープとスクランブルエッグ)を出しておいて、1人だけ特大サラダボウルを抱えるように食べてたら、誰だって変に思うわよね。
採れたて新鮮野菜にレモン汁をたっぷりかけてモリモリ食べる私を見て、蓮とショーンは目を丸くしている。
「お母さん、今朝は凄い食欲だね」
「うん。何故か物凄くお腹が空いちゃって…モグモグ」
「それならサラダ以外も食べた方が良いのでは?」
「何となく、今は野菜しか食べたくないの。体が求めてるっていうか…」
そんな事を言いながら食べているうちに、ボウルは空っぽになってしまった。
「……足りない」
野菜を採ってこようと私が立ち上がると、ラーソンが笑い出した。
「おいおい、なんだか畑の野菜、全部食っちまいそうな勢いだな」
蓮とショーンもつられて笑ったけれど、シヴァだけは笑わなかった。
「否定できんな。何せミホは、明け方前に無意識のまま畑に出て、私が目を覚まさせるまで野菜を貪っていたんだ」
「「「えっ?」」」
私の奇行に3人がドン引きしている。
「お母さん、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。ちょっとお腹空いてるだけで、気分は悪くないから」
「いや、全然大丈夫じゃないだろう。明らかに食べ過ぎだ」
蓮とシヴァに心配かけて申し訳ない気持ちはあるけれど、食欲が止まらないのだ。
「少しだけにするから、畑に行かせて」
「ダメだ、これ以上食べたら、腹を壊すぞ」
「うう、畑の野菜が食べたいよう」
「我慢出来ない程? 何かの依存症みたいだね」
「…依存症? それってアルコールとか薬物とかギャンブルに依存して、人生ダメになるヤツよね?不健康なものに依存するからダメなのよ。私が欲しいのは野菜だもの。めちゃくちゃ健康的じゃない! うん、問題なし!」
そう言って脇をすり抜けて畑に行こうとしたら、蓮とシヴァの両方から止められた。
「待て。食べ過ぎだって言ってるだろう!」
「どういう理屈だよ。やっぱり今日のお母さん、変だって」
「は〜な〜し〜て〜」
(ただ野菜を食べたいだけなのに、何で皆邪魔するの? …やだ。蓮の言う通り、私何だかおかしくなってる)
何だか悲しくなってきた。
「……」
「お母さん? うわっ、泣いてる!?」
「何!?」
声も出さず、静かに涙を流す私を見て、蓮とシヴァの慌てている。
「どうしよう!? 自分がおかしいって自覚があるのに、野菜を食べたい衝動が止まらないの。まるで…体を乗っ取られてるみたい」
私の言葉を聞いて、ショーンがハッとした顔になった。
「ミホさん、今日は希望の実を食べられましたか?」
「いいえ。いつも昼食後に貰うから」
私の答えにシヴァも頷く。
「シヴァさん、今すぐ希望の実をミホさんに食べさせて下さい。自分の仮説が正しいなら、恐らくそれで落ち着くはずです」
「わかった。ちょっと待ってろ」
シヴァはそう言って食堂から出ていき、すぐに戻ってきた。
因みに、希望の実はシヴァが厳重に管理しており、私は保管場所を知らされていない。
「ほら、今日の分だ」
「うん。ありがとう」
渡された実を一口齧る。口いっぱいに広がった果汁を飲み込む度に、体が満たされていく。
食べ終わる頃には、野菜に対する執着も食欲も静まり、私はホッとため息をついた。
「どうやら落ち着かれたみたいですね」
「ええ、ありがとう。取り乱してゴメンなさいね」
「いいえ。女性が妊娠中に情緒不安定になるのは、よくある事らしいですから」
ショーンのフォローが有り難い。
「もしかして、胎の子が原因か?」
「ええ。恐らく魔素が足りなくなったんでしょう。胎児と繋がってるミホさんは、本能的に魔素を含む食べ物を摂取してたんだと思います」
「畑の野菜って、魔素が多いの?」
「含有量は少ないと思いますが、シヴァさんが成長促進魔法を使ってますから、胎児にとって馴染みやすい魔素なんでしょう」
「成る程」
それを聞いて納得したけれど、同時に心配になった。
「希望の実は毎日食べてるのに…。やっぱり1個だけじゃ足りないんじゃないかしら?」
私の言葉に、蓮は「あっ」と声をあげた後、口を押さえた。
「蓮? どうしたの?」
「ううん。ただ、一時的なものかもしれないし、もう少し様子を見た方がいいんじゃないかな?」
「私も蓮の意見に賛成だ。今日のような状態が続くようなら、1日の摂取量を増やそう」
2人の提案に、私は大人しく頷いた。
「うん、そうして。…シヴァ、今まで食い意地が張ってるなんて思ってゴメンね。食べても食べても満たされない事が、こんなに辛いと思わなかった」
「…ちょっと待て、お前の異常な食欲と一緒にするな。私はあんなに酷くないぞ」




