食欲
「ミホ! しっかりしろ!」
(・・・?)
なんだか焦ったようなシヴァの声がする…と思った直後、ガクガクと身体を揺さぶられて、私は目を覚ました。
シヴァが私の肩を掴み、心配そうな顔で覗き込んでいる。
「シヴァ? どうしたの?」
「それはこっちのセリフだ。夜中にふと目が覚めたら、家の中にお前の気配がない。心配して外に出てみれば、畑をフラフラ彷徨ってるし、何度呼びかけても返事もせずに、ひたすら野菜を食べてるし」
「え?」
そう言われて周りを見ると、ここは畑の一角に設けている井戸だった。もうすぐ夜明けなのか、東の空がうっすらと白み始めているが、まだ星が瞬いている。
薄暗い中で自分を見下ろせば、私は寝間着のままで、左手にラディッシュやミニキャロットなど濡れた野菜を抱えていた。
どうやら私は無意識のまま野菜を収穫し、洗って食べていたらしい。
「何それ? 怖い!」
「ああ、無表情でボリボリ野菜を貪る様は、なかなか怖かった。そんなに腹が減ってたのか? お前は私を食い意地が張ってると言うが、こんな真似をした事はないぞ。だいたい…」
「……」
シヴァの小言を黙って聞きながら、私は首を傾げた。
(夢遊病かしら? でも、土付きのまま食べてなくて良かった)
そんな事を思いながら野菜を見ると、不思議とキラキラ光って見える。
(…瑞々しくって美味しそう)
何だか無性にお腹が空いて、私は我慢出来ずにミニキャロットを一本齧った。
(ん〜、美味しい。沁みるわ〜)
採れたて特有の甘みとポリポリとした食感を楽しんでいると、シヴァから頭をガッと掴まれた。
「聞いてるのか?」
(あ、しまった)
私はコクコクと頷き、ゴクンと飲み込んで慌てて謝った。
「ごめんなさい。ちゃんと聞いてたんだけど、無性にお腹が空いちゃって」
私がそう言うと、シヴァはまた心配そうな顔をした。
「妊娠中だから食欲が増えるのは当然だが、無意識に食べるのは心配だな。それとも人間にはよくある事か?」
「いいえ。私もこんな事初めてよ」
「……」
何だろう? シヴァが何とも言えない顔で私を見ている。
モグモグ。ごっくん。
「はっ、私、また無意識に食べちゃってる!? やだ、何で?」
「そんなに腹が空いてるなら、ちゃんとした食事をとったほうがいいだろう。とりあえず、一旦家に戻るぞ」
「ええ」
(シヴァの言う通りね。まずは身支度して朝ご飯を作ろう)
そう思っているのに、なぜか私は途中に植えてある木苺に吸い寄せられ、気がついたら黄色や赤い実を片っ端から頬張っていた。
「ミホ!?」
「か、体が。体が勝手に…モグモグ」
(だってキラキラ光って美味しそうなんだもの。……って、いやいや、どう考えても異常でしょ。これって食べつわりかしら?)
理性を失っていないつもりだけど、どうやら私の体は本能に従って行動しているらしい。
咎められても食べるのを止めない私に、シヴァがドン引きしている。
(ううっ、まさか立場が逆転する日が来るなんて…)




