志願
ちょっと重い話です
「子供達が捕われている場所は、人間の営む「ドルト」という宿です。
北の地下迷宮から西へ進んだ場所にあり、表向きには冒険者用の宿としてますが、秘密裏に攫ってきた魔物の子供達を商品として提供しています」
シヴァが苦い顔で床に転がる男を見た。
「この男の特殊な思念波は、自分より弱い相手を支配できます。
小鬼達はこの男の思念波を纏っていました。盗みを働いていたのもこの男の指示です。
子供達が現在まで逃げる事が出来ないのは、思念波の支配下にいるためです。
この男は商人から依頼を受け、二年程前から子供を攫っていたようです」
「人間の依頼を受けた?その商人とはどういう繫がりだ?」
「この男の腹違いの兄です。その宿自体、男が子供時代に商品として育った場所です」
胸が悪くなるような話だった。
この男は子供の頃に父親から売春を強いられ、現在は兄から人身売買を強いられている。
「何で俺ばっかりこんな目に遭うんだ。好きで混血児に生まれたわけじゃねぇ。俺ばっかりが不幸だ。不公平だ。みんなくたばっちまえっ!」
さっき私を怒らせた言葉は、この男の魂の叫びだった。
確かに、こんな人生を歩んできたならば、誰だって人格が歪んでしまうだろう。
だからといって、この男のやった事が許される訳ではない。
何よりそんな人間達の下では、攫われた子供達が悲惨な状況にいるのは明らかだった。
「てっきり自分の賊巣に監禁していると思っていたんだが・・・人間の宿となると厄介だな」
魔王様のつぶやきが聞こえた。
「私が救出に行きます。これより部下と共に宿を襲う事をお許しください」
ベルガーが前に進み出て申し出た。
「落ち着け。急襲して助け出すのは簡単だが、表向きが冒険者用の健全な宿だ。そこで暴れればこの件と無関係な者も傷つける事になる。そうなれば我らに非があると見なされ、戦争の口実を作ることになるだろう。かといって子供達を放っておく事もできん」
魔王様は広間を見渡した。
「誰か、何か良い案はないか?」
幹部達は顔を見合わせ何事か囁いていたが、打開策を講じる者はなかった。
「やはり強行突破しかないか・・・」
魔王様が独り言のように言った。
居場所がわかった以上、一刻も早く子供達を助けたい。
しかし今後の事を考えると、魔物が人間のテリトリーで暴れるのは出来るだけ避けたい。
・・・それならば。
「あの、恐れながら、私に一つ提案があります」
広間中の視線が私に集まった。
「申してみよ」
「はい。人間のテリトリーで魔物が暴れるのがダメでも、人間同士であれば問題ないですよね?
それなら、私が行きます。一刻も早く子供達を助け出しましょう」
男の境遇が辛すぎて書くのがしんどかったです