夜のお茶会
「蓮、今日はありがとうね。また明日」
「うん、また明日」
俺が料理を作った事に余程感激したのか、お母さんは終始ご機嫌で、ブンブンと大きく手を振りながら見送ってくれた。朝から夕方まで十分に睡眠をとったからか、物凄く元気いっぱいで、心配して損した気分だ。
(いや、元気なのはいい事なんだけどさ)
家に帰ると、先生はやる事があると言って自室にこもったので、その間にお風呂の準備をする。
「先生、お風呂の準備出来たけど、どうする?」
「もう少しかかるから、先に入っていいよ」
「わかった。じゃあ先に入るね」
先生との生活は気楽だ。家賃代わりに掃除や洗濯等の家事は俺がやってるけど、先生も下手なりに協力的だし、アルヴィン隊長と暮らしていた時のように遠慮しなくていい。
いつかは独り立ちしないといけないだろうけど、もう少しだけ今の暮らしを続けたいというのが本音だ。
風呂に浸かって、ほぉっと一息つきながら一日を振り返る。
今日は濃い一日だった。シヴァに本音をぶつけてスッキリしたし、思わぬ収穫もあった。
お父さんの写真が欲しいという願いを叶えられない代わりに、夢で会わせてくれるという。
たった一度きりの夢でも、お父さんと会えるのは嬉しい。
目を瞑り、記憶の中の姿を思い浮かべる。
ちょっとゴツゴツしてる大きな手や広い背中、逞しい腕、日焼けした肌。
重い荷物も軽々と持つお父さんは男らしくて格好良く、あんな風になりたいとずっと思ってた。
お父さんが死んだ時、俺は11歳でほんの子供だったけど、今は15歳になり、背も伸びて筋肉もついている。
勇者になる為の厳しい訓練の賜物で、重い槍や剣も片手で振るう事も出来るようになった。
(話したい事は沢山ある。お父さんは成長した俺を見て何て言ってくれるだろう? 背が伸びたなって、笑って頭を撫でてくれるかな? 手の大きさとか比べてみたい。お父さんの大きくて優しい手に、俺の手は近づけてるかな)
夢だったら、きっと声も聞ける。お父さんにもう一度、名前を呼んでもらえる。
(善は急げって言うし、明日、早速夢を見せてもらおう!)
***
「先生、お風呂空いたよ〜」
「ああ、わかった。すぐ行く」
机に向かって書き物をしていた先生は、手を止めて立ち上がった。
「急ぎの仕事?」
「いや、夕食の時、ミホさんの話を聞いて思いついた事を書き留めていたんだ」
「戦争遺族の雇用について?」
「うん。ドルチェ監修の菓子屋以外にも託児所の設置とか、生活に根付いた女性ならではの意見が聞けて良かった。そのおかげで関連事業を思いついたから、新規事業案として国に提案しようと思って」
「そうなんだ」
「でも行き詰まってたから丁度良かった。気分転換に風呂に入ってくるよ」
先生はそう言うと、さっさと風呂場に行った。
(きっとあの様子じゃあ、また夜更かしするだろうな。お茶でも淹れてあげよう)
シヴァから教えてもらったフルーツ入りのハーブティーは、初めてにしては上手く出来たと思う。
カップにお湯を注ぐと、ふわりといい香りが立ちこめ、風呂から上がったショーンが鼻をひくつかせながら歩いてきた。
「何だか良い匂いがするね」
「ミントティーだよ。先生に飲ませてあげたいって言ったら、シヴァさんがハーブを分けてくれたんだ」
「それは嬉しいな」
先生はいそいそとキッチンにやってきてカップを覗くと目を輝かせた。
「オレンジが入ってる。こんなお洒落なお茶を家で飲めるなんて思わなかったな」
そう言って一口飲むと、ニッコリと笑って満足そうに頷いた。
「うん。スッキリして美味しい」
「良かった。シヴァさんにレシピ教えてもらったんだよ」
そう言って俺も一口飲む。ほんのりとオレンジの味と香りが口の中に広がって、美味しい。
「シヴァさんと随分距離が縮まったようだね」
先生がニコニコしながら言った。
「うん。今日いろんな話をして、本音ぶちまけてきた」
「詳しく聞いても?」
「いいよ」
シヴァとの話した内容を、目を丸くして聞いていた先生は、話し終わると苦笑しながら言った。
「それはまた…随分派手にぶちまけたなぁ」
「まあね。おかげでスッキリしたし、気が楽になった」
「レンはシヴァさんの前では隙を作らないようにしてたもんな」
そうなんだろうか? 自分ではよく分からない。
「しかし、ミホさんの事が心配だね。異種族間の婚姻は、こういった弊害もあるのか」
先生は視線をカップに落としながら、考え込むように呟いた。
「うん。とりあえずしばらくは様子を見る事にした。でも今の所、本人は元気いっぱいなんだよね」
夕食もモリモリ食べてたし。妊婦だからか、食欲旺盛だ。
「レンが作ったからだろう。すごく嬉しそうだった。見ててこっちも幸せな気分になったよ」
先生が手を伸ばして、偉い偉いと頭を撫でてくれた。
「止めてよ、先生みたいな頭になっちゃう」
照れ隠しにそう言うと、先生はニッコリ笑って、わざと頭をぐしゃぐしゃかき混ぜた。
「あのさぁ…早速だけど明日、お父さんの夢を見せてもらおうと思ってるんだ。シヴァさんが夜に家に来るけど、いいかな?」
乱れた髪を整えながらお伺いを立てると、先生は首を傾げた。
「それは構わないけど…。夢って思い通りにいかないから、あまり期待しすぎないほうがいいと思うよ」
「…なんでそんな夢のない事言うかな?」
更新遅くてすみません。
次回はお父さん登場予定です。




