初めての参拝1
国が正式に魔物の神殿参拝を許可した、というニュースは瞬く間に王都に広がり、新政府と神殿には魔物を首都に入れる事に対する不安の声が寄せられた。
それに対しクリフォード元首は根気づよく民の意識改革に努めた。
「我々の今の平和は、魔物の慈悲の上に成り立っている事を忘れてはならない。
同じ悲劇を繰り返さない為にも、民の一人一人に共存に対する理解と協力を願う。
それには相手の事を知り、お互いを尊重して認め合う事が大切だが、交流しない事には始まらない。
此度可決された魔物への神殿参拝の許可は、国としての友好の証でもある。
とはいえ民の不安も分るので、魔物側とも話し合い、安全面も考慮したルールを設けた。
参拝は事前申請で、こちらの指定した日時のみ。またその際、聖騎士も同行する。
彼等は攻撃されない限り、人間に危害を加える事はないと断言しよう。
必要以上に身構えず、他国からの巡礼者が増えたと思ってもらいたい」
神殿代表のリアム神官の声明は、実にシンプルだった。
「女神様はこの世界に生きとし生けるもの全てを愛でられています。祈りを捧げたいという者がいれば、神殿は国籍や種族に関係なく一人の信者として迎える所存です」
神殿が魔物を信者と認めた事で、反対の声は小さくなったが、不安が完全になくなった訳ではない。
トラブルを未然に防ぐ為、クリフォード元首は新たに声明を出した。
「万が一、魔物が参拝した際に民を襲ったなら、私が全ての責任を取る。治療費は勿論の事、魔物側にもきっちりと報復すると約束しよう。
だがどんな理由であれ、人間が先に魔物に攻撃する事や、魔物の仕業に見せかけた犯罪は許さない。犯人は必ず捕まえて、私自ら魔王軍幹部に引き渡してやろう」
***
会議から一ヶ月後、ドルチェの敷地内に真新しい馬車が届けられた。
首都グラードで広く普及している乗合馬車と同じ型ではあるが、運行エリアを表示するシンボルカラーのラインが引かれていない。その代わり、車体全体が夜空を思わせるような濃紺色で、その中央には女神様のシンボルマークが銀色に光り輝いている。また2階はあるが座席がなく荷物置き場になっていた。
これは魔物が神殿に参拝する為に、ソルーナ共和国が用意した特別車だ。
ピカピカに光る馬車はショーンとクリフォード元首の努力が実った結果である。
馬車を挟むように同行して来た聖騎士を見て、蓮は駆け出した。
「エルマー! フィリップさん! 久しぶり」
「レン! 元気だったか?」
「変わりないか? たまには顔を見せに来い」
三人は久しぶりの再会を喜んだ。
「それにしても、ここは本当に凄いな…」
エルマーとフィリップが馬から下りて、呆気にとられた様子で辺りをぐるりと見渡していると、ショーンがやって来た。
「お疲れさまです。お待ちしてました」
「賢者様、お久しぶりです。お元気そうで何より」
少々緊張気味だったフィリップは、ショーンの顔を見てホッとしたように微笑んだ。
そのまま立ち話を始めそうな4人を止めたのは、馬車の御者に任命されたダンである。
クリフォード元首に直々に頼まれた為、断る事が出来なかったらしい。
「とりあえず馬を預かろう。先生達は二人を事務室に案内してくれるか?」
「ああ、そうですね。まずはドルチェの責任者に挨拶に行きましょう」
「っ!!…はい」
フィリップは固い声で返事をした。
ドルチェが魔王軍の施設で幹部が責任者だと言う事は、神殿を通して聖騎士達に伝えてある。
お互い戦う意志がないとは言え、緊張するのは当たり前だろう。
フィリップの様子を見て、エルマーはレンにこっそり囁いた。
『シヴァさんを見たら、多分、別の意味でビックリするよね』
だが実際に驚く事になったのはエルマーの方だった。二人を迎えたシヴァが以前会った時と違い、エルフ本来の姿だったからである。
「ドルチェを任されている魔王軍幹部のシヴァだ。ドルチェは今後しばらく、両種族の交流の窓口となる。お互いの平和の維持の為にも君達の協力に期待している。宜しく頼む」
堂々としながらも決して威圧的ではないシヴァの態度に、二人は安心して挨拶をした。
「聖騎士のフィリップです。信者は我々が責任を持って守りますのでお任せください」
「聖騎士のエルマーです。ご期待に添えるよう頑張ります」
シヴァは満足そうに頷いた。
「今回世話になる信者がこちらに来るまでまだ時間がある。出発時間まで食事をとりながら休んでくれ」
そう言って食堂へと案内するべく扉を開けると、ダンとラーソンが立ったまま談笑していた。
「ラーソン、丁度良かった。参拝に同行する聖騎士のフィリップとエルマーだ。これから長い付き合いになる。挨拶してくれ」
ラーソンはニコニコしながらフィリップを見上げた。
「ドワーフのラーソンだ。酒造りを担当している。まだ一般に売り出してないが味は保証するぜ。エールと果実酒、どっちが好みだ? 友好の印に乾杯しよう!」
人懐っこいラーソンの態度にフィリップは驚いたようだが、申し訳無さそうに言った。
「お気持ちは有り難いですが、これから任務なので…」
「む…そうか、仕方ない。残念だな」
ラーソンが肩を落したのを見て、ショーンが声をかけた。
「お二人がドルチェに来るのは仕事ですからね。でもラーソン殿のお酒は本当に美味しいですよ。今度、家に招待しますから、皆で一緒に飲みませんか?」
その提案にフィリップとラーソンは瞳を輝かせた。
「賢者様の家に招待していただけるなんて光栄です」
「俺も招待してくれるのか!? 嬉しいねぇ」
ショーンのお陰で場の雰囲気が和み、明るくなった。
「皆、座ってくれ。食事にしよう」
席に案内されたフィリップとエルマーは、テーブルに並べられている料理に目を丸くした。
ほかほかと湯気が立っている肉料理に、色とりどりの野菜料理に具沢山のスープ。家ではパンとチーズですませている独身男の食卓では、まずお目にかかれない品揃えである。
感動で震えている二人の前に、お母さんがニコニコしながら焼きたてのパンを運んできてテーブルに置いて挨拶した。
「蓮の母のミホです。蓮が大変お世話になりました。これからもよろしくお願いします」
慌ててフィリップが立ち上がり、挨拶を返す。
「聖騎士のフィリップです。お会いできて光栄です」
「槍の名手だそうですね。蓮を鍛えて下さってありがとうございます」
エルマーも立ち上がって挨拶した。
「お久しぶりです」
「エルマー君、久しぶり。制服凄く似合ってるわ」
「ありがとうございます」
「これからも宜しくね。沢山食べて頂戴」
「はい!」
二人がお母さんと挨拶しているのを、蓮は少し気恥ずかしい思いで見ていた。
全員のカップにハーブ入りの果実水を注ぎ終わると、ラーソンが立ち上がった。
「新しい出会いと交流の成功を祈って、乾杯!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
唐揚げを一口食べたエルマーが天井を見上げて「俺、この任務に立候補して良かった!」と呟くと、フィリップも大きく頷いた。
「同感だ。どの料理も美味い。次の参拝日が楽しみだ」
お母さんの料理は二人の胃袋をがっちりと掴んだらしく、今後も任務に協力してくれそうだ。
これからも月に数回、親しい友人達と食事が出来る事になり、蓮は嬉しくなったのだが。
(お母さん…料理が褒められて嬉しいのは分るけど、恥ずかしいからドヤ顔はやめて)
更新が遅くてすみません。次回は三日月班が登場します!
『勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。』第1話中編 YouTube公開中です。
https://youtu.be/EZx7FXUWk2U




