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覚悟と賭け3

 赤い絨毯の両側には6人の幹部達が並び、私達を静かに迎えた。

 前回の好奇の目とは違い、同情的な目を向けられているのは気のせいではないだろう。

 モリスが悲しげな目で私達二人を見ていた。

 玉座の前に着くと、シヴァと私は並んで跪き、魔王様へ挨拶した。


「魔王様のご命令に従い、ミホを連れて参りました」


 私は黙って頭を下げ、魔王様の言葉を待った。


(おもて)を上げよ」


 私は魔王様の言葉に従い、顔を上げて魔王様を見た。魔王様には何の感情も見られなかった。


「ミホ、話は聞いているな?逃げずに来たとは殊勝(しゅしょう)な事だ」


「はい。女神様に誓いましたから」


「では、覚悟は出来ているのだな?」


「はい。この身一つで多くの子供達が救われるのであれば、異論はございません」


 ほう、というため息や、ひそやかな感嘆の声が幹部達の間から漏れ聞こえた。


「ただ、私を自分の獲物だと言って権利を主張するあの男の言い分には異論があります。

 恐れながら、私からも一つ条件がございます。その条件をあの男が飲むのであれば、この命を差し出します」


 私は賭けに出た。まずはここで魔王様の許可が下りなければ前へ進めない。


「よかろう。あの男を連れてこい」


 しばらくして、鎖に繋がれた男が、ベルガーに(なか)ば引き()られるようにしてやってきた。

 恐らく回復魔法をかけてもらったのだろう、男の赤黒く焼けただれた顔や血のように赤い髪は元に戻っていた。

 男は不貞腐(ふてくさ)れた様子で歩いていたが、謁見の間に私を見つけると、目をギラギラとさせて叫んだ。


「その女を早く寄越せ!俺の獲物だ!(はらわた)引きずり出して血を(すす)ってやる!!」


 鎖をがちゃがちゃ言わせながら、今にも飛びかからんばかりで暴れだした男を、ベルガーが床に押さえつけた。


「魔王様の御前だ。控えろ」


 魔王様が男に向って言った。


「ミホはお前のいい分に異論があり、命を差し出すには条件があるという。

 人間とはいえ、庇護下にいるものが命を賭けている以上、私は話を聞く義務がある。

 ミホの言い分が正しければ、条件を飲み、子供達の居場所を吐く事を命じる。

 これより審議に入る。双方、女神様の(もと)、真実のみを話せ」


 男は床に押さえつけられながらも、私から視線を外さなかった。

 その灰色の目に見つめられ、私はあの時の恐怖と地底湖の冷たさを思い出した。

 ガクガクと小刻みに震える私の手をシヴァが握り、耳元で囁いた。


「どうした?息子を残してここで死ぬつもりか?」


 その言葉に、私は覚醒(かくせい)した。


(そうだ。私はまだ死ぬわけにはいかない。蓮を取り戻さなくっちゃ)


 体の震えが止まり、私は男を睨み返した。


「勝手な事を言わないで。私はあなたの獲物じゃないわ。あなたは小鬼から横取りしただけじゃない」


「何だと!?」


「そうでしょう?あなたは小鬼達に小麦粉を盗むように指示したけど、私を捕らえろとは言ってなかったはずよ。人間の私があの場所にいる事すら知らなかった。違う?」


「・・・」


 男は否定せず、憎々しげに私を見た。私は魔王様に向き直った。


「魔王様、以前私がここに来た時の事を、覚えておられますか?」


「ああ、良く覚えている」


「その時、魔王様の問いにガロンが言った事も?」


「ああ、お前はガロンの非常食だったな」


 気のせいか、魔王様の声が愉快そうに聞こえた。


「そうです。私はガロンの非常食です。

 ですからこの男の獲物ではありません。この男が主張する権利は無効です」


「確かに。今のミホの発言に何か異論はあるか?」


 魔王様が男に問うたが、男は無言で答えなかった。


「ないようだな。ミホ、お前の異論を認めよう。条件を言え」


「ここに来る事を決めたのは私自身です。しかし、ガロンはこの件に関して納得していません。

 彼は自分の非常食を守る権利として、その男と戦う事を望んでいます」


 私は深呼吸した。


「ガロンが負ければ、その男の言う通りにします。煮るなり焼くなり好きにすればいい。

 でも、もしもガロンが勝ったら、今後私に関わらないこと、そして(すみ)やかに子供達の居場所を教える事。これが、私の条件です」


 そう。ガロンが勝っても負けても、子供達の居場所は聞き出せる。


「・・・ガロンってえのは何者だ?」


 男がいぶかしげに聞いた。


「今年13歳になるリザードマンの子供よ。ガロンにとって、私は初めて見る人間で、特別なの。

 もしもあなたが彼の立場だったら、自分の初めての獲物を簡単に他人に譲れる?」


「・・・」


 男は答えない。


「彼は自分が関わらないところで決められていく事に納得できないのよ。

 自分の権利を主張するなら、他人の権利も尊重してあげて。

 子供に大人の勝手な都合を押し付けないで。ガロンが負けても、私は彼を恨んだりしないわ」


 私の言葉に反応したのはベルガーだった。


「ああ、あのガキ、俺に負けるとわかっててもお前を守る為に挑んできたもんな。

 それにひきかえ、子供や小鬼の獲物を横取りするしか出来ないとは、情けない奴だぜ」


 俺には恥ずかしくてとても真似できねえわ、さすが混血児(まざりもの)、と男の事を鼻で笑った。


「何だと!?馬鹿にするな!!

 ・・・いいだろう。その条件飲んでやる。ただし、そのガキが怪我しても文句言うなよ」


「ええ。恨みっこなしよ。私の条件を飲む事を女神様に誓える?」


「ああ。女神様に誓おう。

 もしも俺が負けたら今後お前に関わらない、ついでに子供達の居場所も教えてやる」


「魔王様、お聞きの通りです。この場で、ガロンとこの男が勝負する事をお許し願えますか?」


「いいだろう。シヴァ、ガロンを連れて参れ。

 ミホ、お前は勝負の間、私の隣に控える事を命じる。

 ベルガー、その男の鎖を外してやれ」


 シヴァが私を魔王様の元へ預けたあと、ガロンを呼びに下がった。

 ガロンの事は信じているが、命がかかっている以上、どうしても緊張してしまう。

 不安でいっぱいの中、魔王様が小声で話しかけてきた。


「どちらに転んでも子供達が助かるように巧く仕向けたな。面白い奴だ」


「・・・恐れ入ります」


「あの男の火傷もお前の仕業だろう?今度詳しく話して聞かせよ」


 私は驚いて魔王様を見た。


「ガロンが勝つとお思いですか?」


「当然だ」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 シヴァに伴われてやってきたガロンを見て、男は「騙しやがったな!!」と暴れた。


「ふざけるな!何が13歳の子供だ!化け物じゃねぇか!この勝負は無効だ!」


「いいえ。女神様に誓って嘘は言ってないわ。ガロンは13歳の子供よ」


「ありえねぇだろ、こんなの。卑怯だぞ!!」


 男の言葉にシヴァが憤慨した。


「卑怯なのはどっちだ?子供なら勝てると思って勝負を承諾したんだろう。

 自分より力の弱い相手にしか思念波が使えないからって暴れるな。さっさと勝負しろ」


 魔王様が立ち上がった。


「始め!」


 ガロンが勢いよく男に尻尾を振り回すと、広間に男の絶叫が響いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ガロンを家に残したのは姿を見せると勝負に応じないかもしれないから ミホさん策士でよい
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