覚悟と賭け2
「ミホ!?おまえ、自分が何を言ってるのかわかってるのか?」
シヴァが私の肩を掴んだ。私はまっすぐにシヴァを見返した。
「わかってる。私一人の命で攫われた子供達が無事に戻れるなら儲け物だわ。覚悟も出来てる」
シヴァの顔が悲しげに歪んだかと思うと、力強く抱きしめられた。
「こんな事になるなんて。私はなんて無力なんだ・・・お前一人守ってやれないとは」
私はシヴァの背中に腕をまわし、ポンポンと優しく叩いた。
「ありがとう、シヴァ。私なら大丈夫。あなたとガロンがついてるんだもの。何も怖くないわ」
私の言葉に何かを感じ取ったのか、シヴァは私を腕から解放してくれた。
モリスは気まずげに俯いていた。
「モリスさん。急な話だったから少しだけ時間が欲しいの。魔王様の元に行くのは、明日の夜でも構わないかしら?絶対に逃げたりしないから信用してくれる?」
「もちろんだ。だが、本当にいいのか?」
「ええ。魔王様に伝えて。私は必ずそちらに伺うと。女神様に誓うわ」
「・・・わかった。魔王様に報告してくる。本当にすまない。では、失礼する」
モリスが扉を閉めると、シヴァが私に向き直った。
「それで?私は何をすればいいんだ?」
「あいつと対峙する間、私の側にいて。もしも途中で私の心が折れそうになったら、支えて欲しい」
覚悟は出来てる。
でも恐怖を克服した訳じゃない。
再びあの灰色の目で見つめられた時、平常心でいられるか自信がない。
「お安いご用だ」
シヴァはそう言って、もう一度強く私を抱きしめた。
その腕の温かさに、少しだけ心が軽くなった気がした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、私はいつも通りキッチンに立った。
私の作戦が失敗すれば、二人に食事を作ってあげるのも今日が最後だ。
気がつけば、二人の好きな物ばかり作ってた。
私が料理する間、シヴァは静かに物思いに耽り、ガロンはソワソワと落ち着かなかった。
対照的な二人だったけど、ご飯を食べるときの反応はいつもと一緒だった。
好物を前に目をキラキラと輝かせ、一口食べるごとに「美味しい」と言って嬉しそうに笑った。
私はそれを見て心が満たされた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
夜になり、シヴァが空間魔法を使ってキッチンの扉と謁見の間の扉を繋げた。
「準備できたぞ。行けるか?」
そう言って私を振り返り、左手を差し出した。
私は目を閉じて深呼吸をした。
体の傷は癒えた。
二人の笑顔のおかげで心も充電できた。
シミュレーションも何回もやった。
シヴァも隣にいてくれる。
大丈夫。私はやれる。
私はシヴァの手をとり、扉の前に立った。
「ええ。行きましょう」
シヴァが扉を開けた時、私は笑顔でガロンを振り返った。
「行ってくるわ。ガロン、ちょっと待っててね」
シヴァと私はガロンを残して扉をくぐり抜け、謁見の間に立った。
「シヴァ、空間を閉じて、あちらから入れないようにしてくれる?」
「ああ。だが本当にいいのか?」
「ええ。この間みたいにガロンに乱入される訳にはいかないの」
万が一作戦が失敗した時、私が無惨に殺される場面を見せたくはない。
シヴァが私の希望通り、キッチンの扉と謁見の扉を切り離した。
これでいい。私は自ら退路をたった。この間のように逃げる事は出来ない。
私はシヴァの手を取り、魔王様の前へと歩みを進めた。
賽は投げられた。




