看病2
翌朝、快方に向かっていると思われたミホは熱を出した。
額に玉のような汗を浮かべ、苦しそうに眉を寄せてうなされていた。
何事かと体を調べると、右手が青紫に変色してパンパンに膨れていた。
薬草と回復薬のおかげで他の傷は治っていたけれど、右手の咬み傷は思ったよりも深く重症だったらしい。
シヴァはニルスに貰った熱冷ましと鎮静剤の回復薬を飲ませた。
薬の効果は絶大だった。
ミホの熱は下がり、痛みも治まったのか再び静かに眠り始めた。
しかし、青紫に変色した右手の腫れはそのままだった。
どうしたものかと思案に暮れていると、扉をノックする音が聞こえた。
開くと、ニルスとラーソンが見舞いの品を持って立っていた。
「朝から押し掛けてすまないが、どうにも心配でね。これは兄貴からだ。ミホの具合はどうだ?」
「二人ともありがとう。だいぶ良くはなっているんだが、今朝、熱をだした。
ニルスのくれた回復薬が早速役に立った。ただ、右手の腫れがひかないんだ」
「見舞っても構わないか?」
「ああ、だがまだ眠っていて意識はないんだ」
「そうか」
ニルスとラーソンは静かに部屋に入った。ミホの眠るベッドの傍らで、ガロンが心配そうに付き添っていた。
ミホの青紫に変色した右手を見て、ラーソンは顔をしかめた。
「なあ、シヴァ。あんたほどの魔力があれば回復魔法が使えるだろう?なんでミホに使わないんだ?」
「使いたいのは山々だが、私は回復魔法のコントロールが苦手なんだ。副作用が強すぎておいそれと使えない」
「そりゃ、ガロンの事があるからか?確かに普通のリザードマンと比べると少々変わっちゃいるが、ガロンは健康そのものじゃないか。なんか問題があるのか?」
シヴァはため息をついた。
「体の色や大きさが著しく変わるのはどう考えても普通じゃない。
ましてやミホは人間だ。どんな副作用が現れるかわからない。
怪我が治ったとしても、普通と違った姿になって、その後の生活に支障が出るようになってしまったらどうする?可哀想だろう」
ラーソンはボリボリと頭を掻いた。
「わからんな。他のやつと姿が違って何が悪いんだ?ミホはミホだろう?」
シヴァはポカンとしてラーソンを見た。
「ガロンにしたってそうだ。兄貴から聞いたぜ。ミホは魔王様にガロンが恐ろしくなかったかって聞かれて、大きくて綺麗な生き物に会って感動したって言ったんだってな。驚いたよ。でも俺もガロンに会って確かにそうだと思ったよ。その緑の鱗は見事なもんだ」
ラーソンはガロンを見た。
「なあ、ガロン。お前さん、その姿になって不幸か?自分を可哀想だと思うか?」
ガロンは首を振った。
「ううん。うんと小さい頃は自分だけ違うのが悲しかったけど、今は大きくて良かったって思う。
じいちゃんと一緒に暮らせるし、ミホを腕に乗せて運べるし。
ミホは俺の事、強そうでカッコいいって言ってくれた。だから俺、もっと大きく強くなりたい!」
「ほら見ろ。あんたの回復魔法は誰一人不幸にしてないぞ。あんただってガロンと暮らせて幸せだったんじゃないか?」
シヴァはガロンを見た。
「ああ、確かに。この子のいない生活はもう考えられない」
「もしも副作用がでて、ミホの見てくれが変わったとしても安心しろ。俺が責任とって嫁に貰ってやるよ」
ラーソンはそう言って胸を叩いた。
その言葉にシヴァは笑った。
「ありがとう、ラーソン。お前、凄くいい男だな」
シヴァはミホの右手に自分の手の平を重ねた。
「ミホに回復魔法をかける決心がついたよ。だが、副作用が出たとしても責任を取る必要はない」
シヴァはラーソンを振り返って笑った。
「それは私の役目だからな」
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