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看病

 シヴァは物置小屋の扉を自宅に繋げると、急いでキッチンに行って竃に火をつけ、お湯を沸かした。

 次に暖炉に火をくべ部屋全体を暖めると、清潔な布をありったけ用意し、薬草や回復薬とともにテーブルに置いた。


 準備が終えて扉を開くと、ガロンがポロポロと涙を流しながら歩いてくるのが見えた。

 シヴァは初めてガロンが泣くのを見て衝撃を受けた。


「ガロン、大丈夫だ。ミホは絶対に助けるから、もう泣くな。

 私のベッドにミホを寝かせるから手伝ってくれ」


 二人掛かりでそっとミホを(うつぶ)せに横たえると、シヴァはミホの服を引き裂いて背中をあらわにした。

 シヴァは布をお湯に浸し、引き摺られて真っ赤に染まったミホの背中を優しく拭った。


「思った通りだ。背中の傷は見た目はひどいが、傷は浅い。これなら回復薬(ポーション)で十分治せる」


 そう言って、回復薬(ポーション)の瓶を一つ選ぶと、背中にまんべんなく振りかけた。


「ガロン、私のチュニックを持ってきてくれ。袖のないやつだ。ミホを着替えさせる」


 ガロンが言われた通りチュニックを持って部屋に戻ると、シヴァがミホの上半身を起こし服を脱がせた。


「・・・元気になったら、ミホはきっと勝手に服を脱がされた事を怒るだろうな。

 罰としておやつ抜きにされるかもしれん。ガロン、その時はちゃんと私の味方になってくれよ?」


 シヴァの言葉は、冗談か本気なのかわからなかったけれど、ガロンの不安を取り除いてくれた。


「うん。その時は俺も一緒に怒られる」


「ああ、それなら心強いな。ガロンが一緒なら、ミホもおやつ抜きなんてひどい事はしないだろう」


 シヴァはミホにチュニックを着せると、今度は仰向けに寝かせた。


「小鬼に噛まれたのは両足のふくらはぎと、左腕と右手か・・・まずは消毒と血止めだな」


 シヴァはハーブ水を布に浸してそれぞれの傷口にあてがった。

 

「ガロン、血止めの薬草はわかるな?そう、それだ。それをすり潰してくれ」


 ガロンが薬草をゴリゴリとすり潰している間、シヴァは布を裂いていた。


「じいちゃん、これでいい?」


「ああ、上手にできたな。じゃあそれを傷口に塗ろう」


 シヴァは薬草を傷口に塗ると、裂いた布を巻いた。


「ひとまず傷口の手当はこれでいい。次は体を温める必要があるな」


 シヴァはミホを抱きかかえ、金色の液体が入った回復薬(ポーション)を飲ませようしたが、うまくいかなかった。


「・・・ガロン、ミホに飲ませるからミルクを温めてきてくれるか?」


「わかった」


 ガロンが部屋をでると、シヴァは回復薬(ポーション)の瓶を握り、いい訳するように呟いた。


「人命救助とはいえ、ガロンの教育上あまりよろしくないからな・・・」


 シヴァは回復薬(ポーション)を口に含み、口移しでミホに飲ませた。

 ミホの喉がごくりと音を立てて飲んだのを確認し、ベッドにそっと横たえると、徐々に頬に赤みが戻ってきた。虫の息だった呼吸も、今はスースーと寝息をたてるようになっている。


 それを見てシヴァは大きく息を吐いた。

 プレッシャーから解放され、安心と同時にどっと疲れが出た。


(ひとまず自分が出来る応急処置は全てやった。あとはミホの生命力を信じよう)


 シーツをそっとかけてやっていると、扉を控えめにノックする音がした。

 扉を開けると、薬の瓶を抱えたニルスが立っていた。


「ミホはどんな具合だ?」


「おかげで少し落ち着いてる」


「うちにある効果の高い回復薬(ポーション)を持ってきた。この紫が毒消しで、青が熱冷まし、緑が鎮静効果があるやつだ。良かったら使ってくれ」


「助かるよ。ありがたく使わせてもらう」


「何か必要な物があれば言ってくれ」


「ああ、とりあえず今夜一晩様子を見てみようと思う」


「わかった。兄貴達にも伝えておこう。あの食料泥棒の事はこちらに任せてくれ」


 ニルスはそう言って扉を閉めた。


 シヴァは混血児(まざりもの)の事をすっかり忘れていた。

 どうやらあいつはケチな食料泥棒以外にも売春の斡旋をしているようだった。

 「色んな種族の見目の良い若い女を揃えている」というのが引っかかった。

 以前モリスから受けた相談には、人型の獣人の子供が何人も(さら)われていることも含まれていた。

 もしかしたら、それらの誘拐とあの混血児(まざりもの)が関わっている可能性があった。


 だが、今はミホの事が心配だ。混血児(まざりもの)の始末はモリスと魔王様に任せよう。

 シヴァがニルスに貰った薬の瓶を抱えて部屋に戻ると、ガロンが温めたミルクを持って待っていた。


「ああ、ありがとう、ガロン。ミホは薬のおかげで安定しているから、しばらく寝かせておこう。

 せっかくだからそのミルクはお前が飲みなさい」


 ガロンは赤みの戻ったミホの顔をみて安心し、素直にミルクを飲んだ。


「今夜一晩ついて様子を見よう」


「じいちゃん、俺もここにいてもいい?」


「もちろんだ」


 二人は並んで一晩中ミホに付き添い、朝を迎えた。

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