そうして異世界へ
足が地に着いていない。というか、何も感覚がない。
胃がふわりと浮くような、ヒヤッとする不快な浮遊感。絶叫マシーンで落ちている感じに似ていた。
何も見えない、音も聞こえない闇の中、何度も気が遠くなりそうになったが、気を失うわけにはいかない。感覚はないが、掴んでいる蓮の腕を離すわけにはいかないのだ。
死ぬときは一緒だ。
この子がいなくなったら、今度こそ私は立ち上がれなくなる。
どれくらいの時間だったかは分からない。
目を閉じていても目眩がするような不快感を耐えていると、何かが足に触れる感覚がした。
恐る恐る目を開けると、トンネルを抜ける時のように徐々に光が溢れた。
突然すべての感覚が戻り、自分が石の床に座り込んでいるのが分かった。
次に目に飛び込んできたのは、傍らに倒れている蓮だった。
「蓮!大丈夫?しっかりして!」
蓮を膝に抱え込み、息をしているか確かめる。
「うっ・・・気持ち・・・悪い」
良かった。生きてる。
どうやら少しの間、気を失っていただけのようだ。
ほっとしたら力が抜けてしまった。
私は蓮を膝に抱えたまま、辺りを見渡した。
どうやら私達は、何かの建物の中にいるらしい。
ドーム型の高い天井の中央には丸く穴があいており、そこから陽の光が射している。
他には窓らしき物もないのに周りが明るいのは、壁や柱が白い石でできているせいだろうか。
私達は、建物中央部分にある直径3メートル程の丸い石盤の上にいた。
石盤には淡く光る不思議な文字が浮かび上がっている。
(何これ?もしかして魔法陣とか?まさかね〜)
金で縁取られた白いローブをまとった人々が、石盤を取り囲むようにして立っている。
そのうちの3人の男が、それぞれ本や杖、青く光る水晶を持ち、こちらに手をかざしていた。心無しか、顔が青ざめて見える。
石盤の文字の光が消えると、周りがざわざわと騒がしくなった。
「おい、どういう事だ。二人もいるぞ」
恰幅のいい偉そうなおっさんが、水晶をもった男性につめよる。
「水晶の反応では、勇者様に間違いありません。召喚は成功しました」
「しかし、召喚士が二人も死んでるぞ!なぜだ!?」
(え?誰か死んだの?)
「・・・わかりません。契約している精霊や召喚獣を呼び出すのとは訳が違いますから」
「恐らく、勇者様をこちら側に空間転移させる負荷に耐えられなかったかと」
「我々も、まさかこれほど抵抗されるとは思いませんでしたから」
そういって、三人の男たちは私を見た。
(勇者?召喚??・・・抵抗?)
話についていけなくて、はてなマークを飛ばしている私に、杖を持った男がいった。
「あなたは一体、何者ですか?」