救出2
ガロンは水路の入り口の船着き場で、一人寂しく皆の帰りを待っていた。
可能な限り首をのばして暗い水路を見つめていると、遠くに小さな明かりが灯り、それがだんだんと近づいてきて船が帰ってきたのがわかった。
その船にシヴァとミホが乗っているのがわかってガロンは大喜びした。
「じいちゃん!ミホ!」
手を振って二人に呼びかけたが、誰も応えてくれなかった。
ミホはこちらを見ない。シヴァに抱きかかえられたまま、ぴくりとも動かない。
不思議に思ってよく見ると、明かりに照らされたシヴァの表情が険しい事に気づいた。
ニルスがオールをたくみに操り、静かに船を船着き場に寄せた。
ガロンはシヴァに抱きかかえられたミホの背中がボロボロなのに気づき、愕然とした。
(嘘、まさか・・・)
「じいちゃん、ミホは・・・?」
「まだ息はある。ガロン、ミホを頼む。背中の傷に触らないよう、そっと抱えてくれ」
ガロンは両手を出してミホを受け取ったが、その冷たさに驚き、声を失った。
「ニルス、すまないがどこか使っていない部屋はないか?その扉とうちの扉をつなぎたい」
「この通路を右に曲がったところに、物置小屋がある。そこがここから一番近い。好きに使ってくれ」
「感謝する。ガロン、先に行って準備をしておくから、ミホを連れてきてくれ。急がなくていい。あまり揺らさないようにゆっくり歩いてきなさい」
シヴァはガロンにそう言うと、走って行ってしまった。
ガロンは言われた通り、ゆっくりゆっくり慎重に歩きながらミホに語りかけた。
「ミホ、家に帰るよ。じいちゃんが魔法で空間をつなぐから、すぐ帰れるよ」
目を閉じたまま動かないミホの血の気の失せた白い頬に、濡れた髪が張りついていた。
それを払ってやりたかったが、両手で抱えているので出来なかった。
いつもは左腕一本で抱えていたから簡単に出来たのに、今はそんな些細な事すら出来なくて、ガロンは悲しくなった。
(今朝、家を出るときは元気だったのに。少し前まで皆で楽しそうに笑ってたのに)
何でこんな事になったのかわからない。ガロンの目からポロポロと大粒の涙がこぼれた。
「大丈夫。じいちゃんが助けてくれる。だって、じいちゃんだもん」
そう自分に言い聞かせるように呟いて、ゆっくりとミホを気遣いながら歩くガロンの背中をニルスは見ていられなくなった。
「うちにある、ありったけの回復薬を持ってくる!」
そう言ってニルスは走っていった。
「ミホ、頑張れ。きっとすぐに良くなるから。みんながついてるよ」
ガロンはミホに語りかけながら、シヴァの待つ扉へと歩みを進めた。