交差する運命1
誤字報告して下さった方、ありがとうございます。
「ではレンに会いにいきましょうか」
その一言で、筋肉痛や会議の疲れなんていっぺんに吹き飛んだ。
(やったぁ! やっと蓮に会える!)
突然異世界に召喚されてから苦節2年。私の苦労が報われる日がとうとう来た。嬉しさのあまり私の脳内ではキラキラの紙吹雪が舞い、完全にお祭り状態だった。人目がなければ小躍りしていたかもしれない。
いそいそとリアムについていくと、ドアに女神様のシンボルが金色で描かれている綺麗な白い馬車に案内された。
「アルヴィン隊長の家までお願いします」
「畏まりました」
御者が恭しくドアを開けると、慣れた仕草でリアムが乗り込み、次にショーンさんが乗って私に手を差し出した。
「ミホさん、お手をどうぞ」
「どうもありがとう」
馬車は外側だけでなく、内装も美しかった。座席は勿論のこと、床や天井も淡い紫色で統一されている。
(藤色、それともライラック色かしら? 優しくて落ち着く色だわ)
私とショーンさんがリアムに対面する形で並んで座ると馬車が動き出した。座席も背もたれも程よくクッションが効いており、多少の揺れは気にならない。昨日、息を切らして丘を登っていた時には、こんな風にVIP待遇の馬車に乗るなんて夢にも思わなかった。
「アルヴィン隊長の家は麓の街から少し北上した所です。馬車ならすぐに着きますよ」
座り心地に感動していたら、リアムが話しかけてきた。
「向こうに着いたら、まずアルヴィン隊長にお二人が生きていた事を伝えて、レンを呼んでもらいます」
リアムの言葉に私とショーンさんは顔を見合わせた。
「レンのリアクションが楽しみですね」
「ビックリしすぎて固まるかも」
きっと言葉を失くすくらい驚いた後、泣いちゃうだろうな。私も絶対に泣く自信がある。
「親子と師弟の再会の邪魔をしたくはありませんので、私は皆さんが落ち着くまで側で控えさせてもらいます。レンから事情を聞かれたら、ミホさんからありのままをお話しください。その後でレンに謝罪するお時間を頂きたいのですが…」
「ええ、でも蓮が許すかどうかは知らないわよ?」
「はい。軽蔑されて嫌われても当然です」
リアムは傍目で見てもわかるくらい、しょんぼりと項垂れた。私に殴られるより、蓮に軽蔑される方がダメージが大きいらしい。
「それについては自分も謝らなければいけないです。知ってて黙ってたんですから」
「ショーンさんが言えなかったのは仕方ないと思うけど」
ショーンさんがレンの教育係に任命された時には、私は既に森に捨てられ死んだものと思われていた。真相を蓮に話したところで何の解決にもならないどころかマイナスにしかならなかったろう。
「確かにそうですが…覚悟しときます」
「覚悟って?」
「先生の嘘つき〜と、レンが泣きながら殴りかかってくる未来が視えます」
「すごい! 賢者って未来も視えるの?」
「いいえ。単に経験に基づく予想です。気を許している証拠なんでしょうが、自分に対してレンは結構容赦ないです」
「そう言えば、普段の生活では師弟というより歳の離れた兄弟みたいだとアルヴィン隊長が言ってました。羨ましかったんでしょう」
リアムの言葉にショーンは照れたように頬をかいた。
「実の弟ともした事のない下らない喧嘩もしょっちゅうしてましたからね」
「まあ、そうなんですか? すみません」
「いやいや自分が悪いんですよ。朝寝坊したり、食事を残したりして叱られました」
「そんな所は子供の頃から変わってないんですね。困った人だ」
「ショーンさん、食が細いのによくそんなに背が伸びましたね」
「レンはそれも気に食わなかったみたいですよ。まだまだ育ち盛りだから心配する必要ないのに」
「…2年前に比べると随分背も伸びましたねぇ」
「ええ。でも周りの子も同じように成長して身長差が変わらないから悔しいみたいですよ」
「そうなんですか? 顔立ちも精悍になって大人びてきたと思いますが」
「それはリアム神官の前で恰好付けてるからでしょう。まあ訓練のせいで多少は引き締まったかもしれませんが、幼さというか可愛らしさは抜けてませんよ」
そんな風に話す2人の顔つきや口調から、蓮に対する愛情が伺えた。
正直、色々と思う所もあるけれど、蓮が周りの大人達に愛され守られて成長した事に安堵した。
(知らない土地でたった独りになって、どんなに心細かっただろう? 騙されているとも知らず、私の仇を討つ為に厳しい訓練にも耐え抜いて。蓮、お母さん、貴方を誇りに思うわ)
そんな事を考えていた時、それまで順調に走っていた馬車が止まった。
「どうかし「お、お逃げ下さい!」」
リアムの問いかけに被せるように御者の叫び声が聞こえ、同時にバタバタと走り去る音がした。
「逃げろって一体何から?」
不思議に思って窓から外を見ると、嬉しそうにこちらに駆け寄るガロンの姿があった。
「なんだ、ガロンじゃない。ふふっ、随分嬉しそう。森と違って開放的な場所だから駆け回りたくなったのかしら?」
そう微笑ましく思った後、ハッと我に返った私は二度見した。
「えっ!? ガロン!? 何でいるのっ!?」
御者が逃げていったのは間違いなくガロンのせいだろう。知らない人から見れば、ガロンは大きくて怖そうな魔物でしかない。
(ダンの家からここまで走ってきたのかしら? 昼間で人通りも多かったはず…。街は大騒ぎになったんじゃないかしら? シヴァは何やってんのよ!?)
とりあえず事情を聞こうと扉を開けて外に出たのだけれど、慌てていた為にローブの裾が扉と床の間に挟まってしまい、動けなくなってしまった。
「ああもうっ! こんな時に!」
ぎっちりと挟まったローブの裾をなんとか取ろうと四苦八苦している間に、ガロンが馬車に辿り着いた。
「ミホ! やっと会えた!」
「ガロン、何でここにいるの? お留守番するよう言ったでしょう!?」
「戦争が終わったから迎えにきた!」
「え!? ということは、クリフォード将軍のクーデターが成功したって事?」
「うん。じいちゃんが魔王様に聞いたから間違いないよ」
「ああ、良かった」
これで蓮が魔王様と戦う事もないし、両陣営からこれ以上犠牲が出る事もない。
「あの…ミホさん。そちらは…?」
馬車の中からリアムが引き攣った顔で恐る恐る聞いてきた。
「ああ、この子が森で私を助けてくれたガロンです」
「そうでしたか。ガロン君、ミホさんを助けてくれてありがとうございます」
リアムに頭を下げられ、ガロンは首を傾げた。
「誰だ?」
「リアム神官」
「!! お前か! ミホを怪我させた奴は!!」
ガロンに怒鳴られてリアムはビクッと体をすくみ上がらせた。
「ガロン、落ち着いて。昨夜2発殴ったから気はすんだし、お陰でガロンやシヴァに会えたんだから」
「…それもそうか。なら良し」
「ガロン君、ここまで走ってきたのかい? シヴァさんはいいって言ったの?」
ショーンさんの質問にガロンは気まずそうに目をそらした。
「ガロン?」
「うっ…。みんな俺を見て逃げてった。あと、さっきまで馬に乗った奴らに追いかけられた」
「ああ〜、やっぱり〜」
頭を抱えた私を見て、ガロンは慌てたように言った。
「でも俺、誰も傷付けてないよ」
「うんうん、偉かったね。でも帰ったらシヴァと2人でお説教するから」
「ええ〜」
そんな会話をしながら私は裾を取り出そうと試みていたのだけれど、全然外れてくれない。私が入り口を塞いでいるせいで、ショーンさんもリアムも馬車から出られない。そんな私を見かねてガロンが扉に手をかけた。
「扉を外そうか?」
「ガロン、壊したらダメよ。大丈夫、今度こそ上手くいくから」
着衣のまま斜め上にグイグイ引っ張ったのがいけないのだ。水平に引っ張れば取れるはず。そう思って私はローブを脱いだ。
ガロンに向って槍を突き出そうとしている蓮の姿が見えたのは、そのすぐ後だった。
「駄目っ!!」
考えるより先に、体が動いていた。
読んで下さってありがとうございます。




