追跡〜レン視点
「この居住区に魔物が出没しました! 至急家の中に入り、厳重に戸締まりをして下さい!」
「ええ!?」
「どうして魔物が?」
「どうやって首都の中に入ってきたんだ!?」
突然の出来事に住人達は驚きと不安を隠せず、情報を求めてきた。
「現在調査中です。とにかく安全の為に屋内へ! この場所で戦闘になる可能性もあるので、絶対に窓や戸口を開けないように! 出来るだけ部屋の中心にいて下さい」
聖騎士達が注意喚起して回ると、住民達は慌てて屋内に入った。
「いたぞ! こっちだ!」
「フランク! 右に回って追いつめろ!」
「ダメだ! 馬で入れない場所に逃げ込んだ!」
聖騎士達は声を掛け合って追跡するが、追いついたと思った矢先に魔物はするりと逃げていく。
「くそっ! すばしっこい奴だ!」
「どうやらあの魔物、我らの言葉が理解できるようだな」
「…服を着ていたか?」
「ズボンを履いていました」
「やばいな。知能が高い証拠だ」
魔物の危険度に大きさは関係ない。人間に似た姿の魔物の方が知能も魔力も高いと言われている。どうやらレン達が追っている魔物は、厄介な部類らしかった。
「2人一組で行動しろ。無理だと思ったら深追いはするな!」
アルヴィンの指示に従い、聖騎士達はペアを組んでバラバラと散っていった。
レンはフィリップと共に探索を再開した。絶対にこの手で魔物を退治してやると息巻いているレンに、フィリップが声をかけた。
「レン、もし魔物を見つけても絶対に魔法を使うんじゃないぞ。魔物が攻撃を避けたら、被害が出るのは住人だ。我々の任務はあくまでも住人の安全を守る事だからな」
「…わかりました」
炎系の攻撃は大抵の魔物に有効だ。しかし建物の外には藁や薪など燃えやすい物が雑然と置かれており、下手をすれば大火事になりかねない。そうなると魔物に襲われるよりもひどい被害になるだろう。
頭では分かっているものの、力を存分に奮えないのが口惜しく、レンは悔しくて下唇を噛んだ。
「いたぞ!」
建物の向こう側から仲間の声がしたと思うと、ガシャン、ガラガラっと何かが派手に壊れる音がした。
魔物がこちら側に逃げてくる気配を察知したレンとフィリップは目を合わせ、槍を構えてその瞬間を待った。
しかし。
「グワッグワッグワッ!」
バサバサバサッ!
出てきたのはパニックになって逃げ惑う数十羽のガチョウだった。どうやら魔物は逃げる際、ガチョウの小屋を壊したらしい。2人は逃げ惑うガチョウの喧噪に一瞬の虚をつかれた。視界を覆う白い羽毛の向こうに、遠ざかる緑色の背中がちらりと見えた。
「逃がすか!」
レンは馬の腹を蹴り、魔物の背中を追いかけながら大声で叫んだ。
「現在、魔物は西に向かって逃走中!」
「了解! 我々も並走する!」
「こちら側は任せろ!」
建物を挟んだ両側から仲間達の答えが返ってきた。魔物が狭い路地に逃げ込んでも、向こう側で仲間が対処してくれるし、上手くやれば挟み撃ちも出来る。レン達は協力して魔物を袋小路に追いやった。
「追いつめたぞ! 観念しろ!」
レンとフィリップ、そしてマルコの3人が逃げられないように並んで道を塞ぐ。それ以上先に進めないと悟ったのか、魔物は振り返って困ったように首を傾げた後、猛然とこちらに向って走ってきた。
「来るぞ!」
ギュッと槍を握りしめ、魔物の攻撃に備える。
ダンッ!
大きな鉤爪のある足が大地を蹴り、魔物の巨体が宙を舞ったかと思うと、建物の屋根の上に降り立った。
「なっ…!?」
てっきり自分達に向って襲いかかってくると思って身構えていた3人は、肩すかしを食らわされた。
魔物はそんな3人を無視して屋根の上からぐるりと辺りを見渡すと、ひょいひょいと屋根伝いに移動し、やがて壁の向こうへと消えてしまった。
「くそっ! 馬鹿にしやがって!」
「神殿の方角だ。急げ!」
居住地区の向こうは神殿に続く丘が広がっており、羊や山羊など大型の家畜が放牧されている。その侵入を防ぐ為と境界線の役目を兼ねて、居住地区の周りには頑丈な石造りの高い壁が張り巡らされていた。
魔物を追いつめた壁が、皮肉にもレン達の行く手を阻む事になった。追いかけようにも、こちら側に出入り口が無い為、一旦引き返さないといけない。大幅に時間のロスとなる上に、目の前で魔物を取り逃がしてしまった事にレン達は歯嚙みをした。
「物は考えようだ。丘ならば隠れる場所も少ないし、戦いやすい。魔物が神殿に到達する前に、何としても捕らえるぞ!」
「「「はっ!」」」
(そうだ。丘だったら魔法攻撃も可能だ。絶対に仕留めてやる!)
レンは気持ちを切り替えて馬を走らせた。
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