地底湖の戦い2
私が狙ったのは、小麦粉で粉塵爆発を起こす事だった。
こちらの思惑通り赤い髪の男が動けば、必ず奴らにダメージを与えられるはずだ。
自分も巻き込まれる覚悟で無茶な行動はしたが、一緒に死ぬつもりはさらさらないので、決死の覚悟で湖に飛び込んだ。
地底湖の水は、思ったよりもずっと冷たかった。
あまりの冷たさに一瞬後悔したけれど、少しでも小舟から離れたくて、息を深く吸い込んで出来る限り深く潜り、必死で手を動かした。
たとえ爆発に巻き込まれても、水の中なら衝撃が抑えられるはずだ。
そう思っていたのに、期待した爆発音や衝撃が感じられない。
(失敗した?小麦粉が足りなかった?それとも・・・?)
息継ぎの為に水面に顔を出した時、断末魔の雄叫びが聞こえ、振り返ると小舟が燃えているのが見えた。
勢い良く燃え盛る炎の中、黒い影が踊るように湖に落ちた。
どうやら爆発するまでには至らなかったが、こちらの読み通り松明の火が空気中の小麦粉に引火したらしい。
燃え上がる船が明かりの役目となり、周りの様子がよく見えた。
近くに水中まで伸びている太いつららの柱があった。
私は何とかそこまで泳いでいき、柱にしがみついて大きく息を吐いた。
とりあえず難は逃れたが、絶望的状況に変わりはない。
冷たく、足も届かない深さの地底湖の中に、たった一人でいるのだ。
既に岸は見えないし方向も分からない。
でも、あの時一緒にラーソンがいた。きっとシヴァ達に知らせて皆で探してくれていると思う。
希望を失わないようにしよう、そう思った矢先、誰かに足を掴まれ、水の中に引きずり込まれた。
突然の事に驚いて、無茶苦茶に足をばたつかせると何かにあたり、私の足は解放された。
急いで水面まで泳ぎ、また柱にしがみつきいて大きく呼吸していると、突然目の前に男が現れた。
「っひぃっ!」
私は息をのみ、声にならない叫びをあげた。
燃え盛る船が明かりとなり、赤黒く焼けただれた男の顔を照らした。
灰色の瞳はギラギラと憎しみで光っていた。
「ふざけやがって、この糞アマ。よくもコケにしてくれたな。この俺をこんな目に遭わせて、ただですむと思うなよ」
男が私の髪を掴み、何度も水の中へ押し付けた。
苦しくて必死で抵抗するけれど、男はびくともしない。
動かしていた手に力が入らなくなると、男は私を水中から引き上げ、柱に押し付けた。
「おいおい、簡単にくたばるんじゃねぇぞ。こんなもんじゃ気がすまねぇ」
そして、必死で息をする私に、男が焼けただれた顔を近づけて耳元で囁いた。
「てめぇの血の味は覚えたからな。俺から逃げられると思うなよ。生きたまま生皮剥いで、嬲り殺しにしてやる」
(悔しい。結局捕まってしまった)
抵抗したくても、既に手足の感覚がなくなってきた。
おかげで、痛みもそんなに感じないが、体が鉛のように重く感じて力が入らない。
寒い。すごく寒い。
それに、なんだか・・・とても眠い。
柱にしがみついていた手が、力を無くしてズルリと滑った。
(蓮・・・お母さん、ダメかもしれない。ごめんね・・・)
薄れゆく意識の中、遠くで誰かに呼ばれたような気がした。




