女の直感
あれ、と私が指差した方向を見たショーンさんは、5秒程固まった後、絞り出すような声を発した。
「…あれ、…とは?」
「だから祭壇」
「いやいやいやいや、何をどう考えたら祭壇を壊すなんて発想になるんですか?」
「なんとなくそうした方がいいと、私の直感が訴えてます」
ショーンさんは真っ青な顔で私に訴えてきた。
「この祭壇は女神様と繋がりの深い場所です。冗談でもそんな恐ろしい事を言わないで下さい」
「私は本気よ。何も跡形もなく壊そうって言うんじゃないの。この先、勇者の召喚ができないように表面に傷をつけるとか、そんな感じなんだけど」
「祭壇に傷を付けるなんて…!そんな罰当たりな事、出来るわけないじゃないですか!」
(まあ、反対されるのはしょうがないわよね。私だって国宝級の美術品や世界遺産を故意に傷付けられたり壊されたりしたら嫌だし)
ショーンさんの気持ちも分かるので、私もどう説得した物かと困ってしまった。
「この祭壇はとても神聖な物なんです。みだりに触ったりしたら、どんな罰を受けるか…」
「誰が罰を下すの?」
「勿論女神様です!」
「それなら心配いらないわ。私この世界に来た時、土足でここを歩いたけど罰なんか受けなかったわよ」
リアムの陰謀で死ぬ所だったけど、結局助かったし。
「それは…そう、かも知れませんが…。召喚されたのは特例というか…仕方ないというか…」
「それに触るのも恐れ多いって言ってたけど、私が召喚された時、石盤には召喚用の魔法陣が書かれてたわ。罰を受けるんなら魔法陣を書いた人達の方…」
そこまで言って私は、はたっと思い当たった。
「…そう言えば、私がここに来た時、男性が2人亡くなってるわ…。リアム達に私のせいじゃないかって疑われたけど、あれって…もしかして天罰?」
私がそう言うと、ショーンさんはあわあわしていた動きをピタリと止めた。
「男性が2人亡くなった?ここでですか?」
「ええ、そう言えば言ってなかったかしら」
「亡くなった男性は誰ですか?」
「名前も顔も知らないわ。ただ、召喚士が2人も死んでるぞ、って誰かが…多分、アビラス国王が叫んでた。ねえ、あれってやっぱり天罰だったのかな?」
さ〜っと血の気が引いて怖じ気づいた私とは対照的に、ショーンさんは落ち着きを取り戻した。
「そうかも知れませんが、別の可能性も出てきました。恐らく…等価交換です」
「等価交換?」
ショーンさんは青い顔をして頷いた。
「はい。異世界から2人の人間を喚んだ対価として、同じ2人の人間の命が対価として支払われた、と推測します」
「それって、まるで生け贄じゃない!」
「その言い方が合ってるかどうかはわかりませんが、考えてみれば女神様も対価を支払われています」
「え?どういう事?」
「魔王様から見せていただいた過去を思い出して下さい。ソレイユをこちらの世界に呼んだ時、その交換条件として彼の望みを叶えてあげた。ソレイユの家族は命拾いをし、一生裕福に暮らせる財も作る事ができた」
「そういえば、そうだったわね」
「恐らくそれ以前にも異世界から道具を召喚した際は、あちらの世界に何らかの形で対価を渡しているはずです」
「物々交換ってこと?」
「はい。異なる世界間で者や人を移動すれば、当然バランスが崩れる。そのバランスを崩さない為に、同等の対価を用意する必要がある、そう考えると辻褄が合います」
ショーンさんは顎に手を当てて、ほぼ独り言のように話し続けた。
「異世界召喚は神の領域です。恐らく異世界と繋がるゲートはこの祭壇だけでしょう。だから先人達の巨大魔法陣は失敗した」
「それなら先人達がこの祭壇で召喚出来なかったのはなぜかしら?ここが使えないから巨大魔法陣を作ったのよね?」
「あの時は祭壇をそのまま使おうとしたからでしょう。ミホさん達の召喚が成功したのは、恐らく祭壇に直接魔法陣を書いて上書きしたからです」
「成る程。本来なら女神様しか使えないゲートに、人が無理矢理手を加えたからイレギュラーが発生したって訳ね」
「その通りです」
「…魔王様の話だと、巨大魔法陣が召喚に失敗して、星の民の魔力を吸収したって言ってたわよね?」
「ええ。不完全な魔法陣でありながら、術が発動されたのが悲劇の始まりです」
「だったら対価として奪われた魔力はどこに行ってるのかしら?」
「この祭壇は巨大魔法陣の一部に組み込まれてましたから、ここに蓄積されたと考えるのが妥当でしょうね。ミホさん達を召喚した際、異世界のゲートを開くエネルギーとして使われたんじゃないでしょうか」
さすがは賢者様。理路整然としていらっしゃる。
全て推測の域とは言え、ほぼ正解じゃないだろうかと思えてくる。
「下手に人が使うと、新たな犠牲者が増えるだけよね。やっぱりこれ、壊した方が良くない?」
「…そうですね」
結論。
うまく説明できなくとも、女の直感は当たるものだ。
読んで下さってありがとうございます。




