聖堂への潜入2
「…おかしいですね。いつもなら一日の終わりに必ず祈りを捧げにくるはずなのに」
「何かあったのかしら?」
2人で話していると、入り口に人の気配がした。
やっと来たのかと思っていたら、現れたのはリアムではなく、ダンと奉仕作業の責任者だった。
「いいですか、あまり時間は取れませんよ」
「すみません。すぐに終わらせますので」
ダンはそう言うと、壁に添って何かを探すようにゆっくりと歩いた。そして責任者に背を向けた状態でしゃがみ込み、何かを拾い上げる仕草をした。
「あ、あった。ありました。思った通り蠟燭の灯を点す時に落したようです」
「おや、見つかって良かったですね」
「はい、おかげで父の形見を失くさずにすみました」
「あなたは本当に運がいい。本来なら今の時間は立ち入り禁止ですよ。リアム神官様のご祈祷の時間ですから」
「本当に無理を言ってすみません。ところでリアム神官様は本日はお戻りになられないのですか?」
「分かりません。今日の予定を全てキャンセルして突然お城に行かれたそうです。遅くなるかも知れないというお話でした」
「そうですか。高名なリアム神官様のお姿を一目でも見たかったのですが…残念です」
「明日になれば会える機会もあるでしょう。さあ、早く戻りましょう」
出て行く直後、ダンは振り返ってバチッとウィンクしていった。相変わらず私達の姿が見えていないらしく、視線は明後日の方角だったけれど。
どうやらリアム不在という情報を聞きつけ、それを私達に知らせる為に一芝居打ってくれたらしい。
「ダンさんは凄いですね。我々に知らせる為に、とっさに機転を利かせてくれたんでしょう」
「ええ。彼は魔王様が直々にヘッドハンティングした優秀な人材よ。非常時でも臨機応変に対応できるから頼もしいわ」
「さすがは魔王様だ。人を見る目があるんですねぇ」
それについては同感だ。
ダンは教養がないから本なんてろくに読んだ事がない、と以前ショーンさんに話していたけれど、彼は自分で考えて行動する事ができる人間だ。
知識はなくても知恵のある賢い人間だし、人柄も良い。
それをあの短い時間で見抜いた魔王様の慧眼には舌を巻くばかりだ。
「しかし、どうしましょう? 先程の話では、いつ帰ってくるかも分からないと言ってましたし、一度戻って計画を練り直しますか?」
「う〜ん、そうね。よりによってこのタイミングで城に行くなんて思わなかったわ」
城に行ったという事は、もしかしたら将軍達と鉢合わせた可能性もある。
将軍達の目的の一つは、投獄されている聖騎士達を救出することだから、それに関してリアム神官が邪魔をするとは思えないけれど、国王を断罪する事については黙っていないだろう。今頃、将軍達は慌てているかも知れない。
「せっかくここまで来たんだし、ショーンさんさえ良ければ、もう少し待ってみたいんですが」
「構いませんよ。リアム神官が城に泊まる事はないと思いますし」
ショーンさんが快諾してくれたので、私達はそのまま聖堂の中でリアムを待つ事にした。
「そういえば、この石盤が祭壇なんですか?」
「ええ。神殿ができる前から、この祭壇は聖なる物として崇められてきました。遥か昔から、女神様からの恵みが齎された場所でしたから」
そういえば魔王様が見せてくれた過去の映像にも、その様子が映っていたっけ。
人々はこの祭壇に祈り、生活に便利な道具を手に入れていた。
ソレイユがこの世界に来るまで何の努力をする事もなく、女神様に甘やかされていたのだ。
(あれ? 確かソレイユは人々を成長させる為に、二度とこの石盤を使わないで欲しいってお願いしてたわね。でも今までずっと勇者の召喚に使われてる状態だわ。ソレイユが魔王になってしまったから、その願いは無効になったのかしら?)
嘘を何より嫌う女神様が、約束を破るって有りなの?
…いや、でもよくよく考えてみれば、あれ以降、道具が齎される事はなかったから、女神様の中ではソレイユとの約束を破った事になっていないのかも知れない。
人々はソレイユの代わりになる指導者を願い、女神様はそれに応えてソレイユの血を受け継ぐ若者をこの世界に喚んだのだから。
でも召喚されるのが道具から人に変わっただけで、こちらの世界の人間が、困った時の神頼み(物理)を止めるようになったわけではない。
私と蓮はそれに巻き込まれた被害者だ。
そして今、その元凶が目の前にある。
「…ショーンさん、私、考えたんですけど」
「はい、何でしょう?」
「祭壇、壊しませんか?」
読んで下さってありがとうございます。




