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勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


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聖堂への潜入

 神殿に到着した時間が遅かった私達は、夕食後に奉仕作業をする事になった。

 数ある奉仕作業の中から自分ができそうな事を申請した結果、私はパンの下ごしらえを割り振られた。

 パンの仕込みは中々ハードな作業だ。リアムと対決する体力が温存できるかしら、と危惧していたのだけれど。


「え? 本当にこれだけでいいんですか?」

「ええ。これが昔ながらの作り方よ」


 パンの仕込みと言っても、材料である小麦粉、塩、水、天然酵母を混ぜるだけで、捏ねる事すらしなくていいと言われて驚いた。

 一晩寝かせて発酵が進むと十分に膨らむから、少々打ち粉をして形を丸く整えた後、表面に十字の切り込みを入れて焼くだけらしい。

 夕食に出されたパンは、外はカリカリ中はもっちりとしていて、素朴な味わいながらも美味しかった。

 まさかこんなに簡単なレシピだったとは…。昔から伝えられているという酵母に秘密があるのかも知れない。

 自分のノルマを達成したら休んでいいと言われ、黙々と作業を行っていると、蠟燭の束を抱えたダンが厨房にやってきた。


「蠟燭の補充に来ました。どこに置けばいいですか?」

「ああ、ご苦労様。ここの棚に置いて頂戴。ついでに小さくなった蠟燭を交換してもらえるかしら?」

「わかりました」


 ダンは厨房責任者の指示を仰いで作業しながら、さりげなく私の近くに来た。


「失礼、こちらの蠟燭も交換しますね」


 そう言って隣に立つと耳元で囁いた。


「先生から伝言。作業が終わったら井戸に来てくれ」


 ノルマを終えた私は、ダンに言われた通り井戸へと向った。

 丁度、神殿の清掃作業を終えたらしい巡礼者の一団がゾロゾロと宿泊施設の方に向っていくところだった。

 その一団から一人が抜け出し、井戸の方へ近づいて来た。ショーンさんだ。

 私が井戸にたどり着いた時、ショーンさんが井戸から水を汲んで手を清めているところだった。


「お疲れさまです。私も水を分けていただいても?」

「ええ、勿論」


 井戸の近くに人がいたので、私達は何気ない会話をしてやり過ごした。

 辺りに人気がなくなったのを確かめ、ショーンさんは私に認識阻害魔法をかけた。


「では荷物を持って、聖堂に来て下さい」

「わかりました」


 ベッドに荷物を置いたままでは、就寝時刻を過ぎても戻らなかった時に私の不在がバレてしまう。

 私は宿泊施設に戻ると、そっと自分の荷物を回収して部屋を出た。

 幸い両隣は空いていたし、ベッドに横になっている人も多かったので、私の不自然な行動に注意を向ける人はいなかった。

 

(本当に気付かないのね)


 他人からは完全に姿が見えなくなってるのではなく、その場にいても違和感のない物に置き換わって見えているらしい。

 今の私は、周りの人達には小さな虫か何かに見えてるんだろう。

 それでも、人目につかない事にこした事はない。

 廊下に人がいる時は立ち止まって息を殺し、足音をたてないようにコソコソしながら私は聖堂を目指した。

 

 ショーンさんは既に聖堂の入り口に立っていて、私に気付くと軽く手を挙げた。

 魔法がかかっている者同士はお互いを認識できるので、どんな仕組みなのか本当に不思議だ。

 しばらくすると、聖堂に3人の人がやって来た。

 その中にダンもいたけれど、すぐ近くに立っている私達に視線を寄越す事すらしなかった。


「ではここで最後になります。神聖な場所ですので、祭壇に触ったり、勝手に物を動かしたりしないようにして下さい」

「はい」

「わかりました」


 聖堂に入る前にダンが心配そうにキョロキョロと辺りを伺っている所を見ると、どうやら彼には私達の姿は見えていないらしい。

 ショーンさんが黙って頷いたので、私達も少し離れて彼等の後をついて行った。

 聖堂に入った私は、部屋の中央に設置されている石盤を見て思わず息を飲んだ。

 ここは私と蓮が召喚された場所だからだ。

 中央に丸い穴の空いたドーム型の天井、直径3メートル程の石盤、白い壁。

 あの時と違うのは、石盤に淡く光る文字が浮かび上がっていない事だ。

 呆然と立ちすくむ私に気付く事なく、3人は黙々と床に設置された蠟燭を交換して灯を点していく。

 2年前は気付かなかったけれど、この聖堂の壁に添うように幅30センチ程の水路が設けられており、ゆったりとした水の流れが蠟燭の光を反射して部屋を明るく照らしていた。

 全ての蠟燭に灯が点されると、責任者の人がニッコリ笑った。


「これで本日の作業は終わりです。お疲れさまでした。では、戻りましょうか」


 3人が聖堂から出て行った後、私は大きく息を吐いた。


「は〜、緊張した。見えてないって分かってても、息止めちゃってたわ」

「ここまでは計画通りですね。あとはリアム神官が来るのを待つだけです。彼が来たら魔法を解除しましょう」


 だけど、予定の時間を過ぎてもリアムは姿を現さなかった。

読んで下さってありがとうございます。

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