脳内裁判
久しぶりの更新です。読んで下さってありがとうございます。
巡礼者用の宿泊施設は女性用と男性用に分かれているので、一旦2人と別れて荷物を置く事にした。
施設の受付で一泊したいと告げると、大部屋に行くように言われた。
長期滞在者や病人には特別に個室があてがわれるようだが、その他大勢は選択の余地なく大部屋に放り込まれるシステムらしい。
『神殿に宿泊するのは、その日訪問した巡礼者の一割にも満たないんですよ。麓の町には巡礼者用の安宿がひしめき合っているので、ほとんどがそちらへ流れるんです。
施設を利用するのは、神殿に奉仕する目的の長期滞在者、急病や怪我で歩行が困難な者、それと到着時刻が遅くなった者くらいです』
ここに来るまでの道すがら、ショーンさんが説明してくれた。
『長旅で手持ちも少ないのにどうしてかしら? 神殿の施設なら無料だから倹約できそうなものだけど』
『部屋やベッドの数には限りがありますし。あとはまあ、実際にご覧になれば分かりますよ』
(…成る程。こういうことか)
大部屋に入った途端、多くの人がお金を払ってまで麓の宿屋に行く気持ちがわかった。
部屋には藁に布を被せただけの簡易ベッドが等間隔でずらりと並んでいた。まるでフェリーの雑魚寝部屋のような光景だった。もちろんプライバシーなんて一切ない。雨風が凌げるだけまし、という感じである。
(確かに野宿よりはましだけど…)
隣のベッドとの間隔は拳1つ分くらいしかない。
見知らぬ他人と隣り合わせで寝るのは仕方ないとしても、せめてパーソナルスペースは確保してほしい。寝相の悪い人の隣になってしまったら最悪だ。
幸い女性の巡礼者の数は男性に比べれば少ないので、皆ベッド1つ空けて居場所を確保していた。
私もそれに倣い、空いているベッドに腰掛けた。
「ふうっ…」
ベッドの枕元に置いてある籠に荷物を置いて一息つくと、様々な思いが胸に込み上げて来た。
神殿は蓮と引き離された場所だ。
2年経って、ようやく来ることができた。
あの子を危ない目になんて遭わせたくなかったのに、自分が無力だったせいで守ることができなかった。
結局、蓮はリアム達の思惑通り勇者として祭り上げられ、挙げ句の果てに戦争にまで駆り出された。
たった15歳の少年が、死地に赴かされたのだ。
実際に魔王軍と戦闘になった時間は1日という短さだったが、それでも多くの人の命が消えていった。
目の前で人が死に行く様を見て、蓮は何を思っただろう?
敵として対峙していた私でさえ、哀れな兵士達の死に様は目を覆いたくなったくらいだ。
兵士達の呻き声や断末魔の叫びは、いまでも耳にこびりついている。
あの場所で、どれだけの血が流れたことか…。
砦の上にいた私にまで、むせ返るような血の匂いが届いた。
そして蓮は、その真っ只中にいたのだ。
生き残る為に、アンデッド化したかつての仲間を倒さねばならなかった時。
ショーンさんが己を庇って花に飲み込まれたのを見た時。
この戦争であの子の心がどれほど深く傷付けられたか、想像に難くない。
トラウマレベルの傷を植え付けてしまったのは、魔王軍だ。
けれど、そもそもの原因はアビラス国王とリアム神官だ。
ああ、あいつらまとめて被告人席に座らせてやりたい。
***
被告は世界の理を無視して勇者の召喚を行い、原告と原告の息子をこの世界に呼びだし、勇者の動機付けの為に原告の命を奪おうとしました。
被告は直接手を下さず、帰らずの森に原告を置き去りにして魔物が原告を殺すよう仕向けたようですが、原告は魔物によって命拾いしました。
その後、被告は身勝手な理由から戦争を起こし、未成年者である原告の息子を危険に曝しました。
原告は即刻戦争をやめ、原告の息子を無事に返すよう求めています。
証人は前へ。女神様に誓い、真実のみを語って下さい。
原告側の証人ガロンくん、先程の内容に間違いありませんか?
ガロン:間違いありません。森の中で足に怪我をしたミホに会い、保護しました。
被告側の証人アルヴィンさん、先程の内容に間違いありませんか?
アルヴィン:はい、間違いありません。リアム神官の指示により帰らずの森にミホさんを置き去りにしたことを、今でも後悔しています。
では罪状を読み上げます。
一つ、被告は世界の理を無視し、己の都合で勇者の召喚を行い、原告と原告の息子を呼び出した。
二つ、被告は原告の殺害を魔物の仕業にしようと企て、原告の死を原告の息子に告げて勇者になるよう誘導した。
三つ、被告は魔物が悪だという固定観念を原告の息子に植え付けた。
四つ、被告は自国の不況の理由を確たる証拠もなく魔物の所為と決めつけ、話し合いをすることなく戦争を仕掛けた。
五つ、被告は原告の息子が未成年者だと知りながら、戦争に参加させ危険に曝した。
六つ、被告は原告の息子が属する聖騎士隊を、不当な理由で投獄した。
では被告に質問します。先程の罪状に間違いはありませんか?
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その後、あいつらの身勝手な理由で、私達親子がどれだけ運命を狂わされたか、切々と語ったことが功を奏し、陪審員は満場一致で有罪判決を下した。
裁判長が、児童虐待とか人種差別に厳しい元の世界の某大国のごとく被告人に懲役200年を言い渡したのを見届け、私は勝訴と書かれた紙を手に外に飛び出した。
***
国王とリアムに対する怒りで頭に血が上ってしまった私は、脳内裁判で二人をボコボコにすることで冷静さを取り戻した。
(今の私はあの頃とは違うわ。リアム神官、待ってなさいよ!!)
遅ればせながらご報告です。
第9回ネット小説大賞にてコミックシナリオ賞を受賞致しました!
近々、ミホ達の活躍を漫画で見れます!
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皆さんに励まされて書き続けて来た甲斐がありました。
これからも頑張りますので、引き続き応援よろしくお願いします。




